シリコンに代わる基板材料として有望視されるGaN(窒化ガリウム)

次世代パワー半導体への関心が高まっている。パワー半導体とは、モータや照明などの制御や電力の変換を行う半導体のこと。交流を直流にしたり、電圧を変換してモータを駆動させたりと、電源(電力)の制御や供給を行う。高い電圧、大きな電流に対しても壊れない構造を有することからパワー半導体と呼ばれる。

現在主流のパワー半導体のウエハ基板はシリコン(Si)でできているが、より高性能なものが求められている。シリコンに代わって担う高性能材料として注目されているのが、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)だ。シリコンが単体の物質であるのに対し、SiCは炭素とケイ素の化合物、GaNはガリウムと窒素の化合物であることから、化合物半導体ともいわれる。

シリコンに比べて高耐圧、高耐熱、小型化、高速化が可能になるため、次世代パワー半導体と呼ばれる。現在ではより性能の高いGaNが有望視される。

AIデータセンターやEVなどにも適用可能なGaNパワー半導体

財務省が先ごろ発表した2026年度予算の概算要求額で、文部科学省は「DX/GX両立に向けたパワーエレクトロニクス次世代加速事業」を新規に要求している。文科省の8月時点での資料には「本事業は、窒化ガリウム(GaN)を用いたパワーデバイスの作り込み技術の高度化と次世代GaNパワエレの実現に向けた課題を突破するための基礎基盤的な研究開発を行うもの」とある。要求額は約14億円だが、研究事業期間は2026年度から2030年度までの5年間としており、翌年度以降増額される可能性もある。

GaNパワー半導体はより大容量・高耐電圧が求められるAI(人工知能)データセンター用給電システムやEVなどの新市場にも適用可能とされる。電力損失が少ないため、例えばEVの充電時間はSiが90分とするとSiCでは20分、GaNパワー半導体なら将来的に5分でできるとの試算もある。また、自動運転が今後普及する中で、通信量が急増しエッジAI向けの需要も見込まれる。

また、GaNは効率の高さから低消費電力化にも大きく貢献することが期待されている。Si系では海外が先行するが、GaNでは日本の技術に優位性がある。量産化でも先頭集団にあるとみられる。

GaNパワー半導体の関連銘柄6選

この分野で先行する日本企業の活躍に期待したい。関連銘柄をピックアップ。

ローム(6963)

車載や産業機器向けパワー半導体に強み。市況の悪化などでSiCパワー半導体は低迷し、設備投資予定額も大幅に減額。一方、GaNパワー半導体の開発は順調に進展。一部報道によると650V耐圧GaN HEMT(高電子移動度トランジスタ)の第3世代を2025年にも量産化する。スイッチング損失低減など、出力電荷量が現行品から大幅に改善するという。

【図表1】ローム(6963):週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年10月16日時点)

三菱ケミカルグループ(4188)

GaN基板を手掛けている。長年培ってきた結晶を成長させる技術と化合物半導体の加工技術を用いて高品質な単結晶基板を製造。均一かつ高品位な表面品質を特徴としている。日本製鋼所(5631)と共同で開発。報道によれば100ミリ基板のサンプル評価を始め、2025年中に150ミリ基板も始める予定。大型の設備で一度に大量に作ることで生産性を高め、製造コストは従来手法に比べ10分の1程度に削減できる見込み。

【図表2】三菱ケミカルグループ(4188):週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年10月16日時点)

住友化学(4005)

2024年11月にNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプログラムに採択され、6インチGaNウエハ量産技術開発を加速すると発表。GaN基板上にさらにGaN層をエピタキシャル(薄膜結晶)成長させることで品質を向上。50ミリ、100ミリ基板の量産体制を整えたとの報道。150ミリのサンプル評価を進め、2028年度の量産を目指すという。

【図表3】住友化学(4005):週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年10月16日時点)

ルネサスエレクトロニクス(6723)

2024年6月にGaNパワー半導体の米トランスフォーム社を買収したと発表している。トランスフォーム社は高性能・高信頼性GaN製品の設計・製造・販売を行う。同社はパワー半導体を幅広く手掛けているが、買収でGaNに参入。2025年7月には650V耐圧のGaNパワー半導体の新製品を発表している。AIデータセンター電源向けなどへの採用が期待されるという。

【図表4】ルネサスエレクトロニクス(6723):週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年10月16日時点)

サンケン電気(6707)

2025年4月に独自のGaNエピタキシャル技術を持つパウデック(栃木県)を買収。8月に吸収合併。パウデックは低イオン抵抗で高耐圧化が可能になる独自のPSJ技術に関する特許を多数保有している。中期経営計画では2026年に白物家電向けデバイスなどの量産開始、2030年に自動車や産機向けの量産を目指すとしている。

【図表5】サンケン電気(6707):週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年10月16日時点)

豊田合成(7282)

2025年1月に同社がGaNパワー半導体向けに開発したGaN基板の高品質化技術により、パワー半導体の性能が高められたことが検証されたと発表している。固体物理学の国際的な学術誌で紹介されたという。

【図表6】豊田合成(7282):週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年10月16日時点)