S&P500は週間で1.09%上昇、ナスダック100も1.15%上昇
アメリカでは10月1日から連邦政府が閉鎖に入りました。予算関連法案(歳出法案)が期限である9月末までに可決されず、政府機関の多くが資金切れとなったからです。これにより、国家安全保障や治安、医療など「不可欠な業務」に従事する職員を除き、連邦職員は一時解雇され、政府サービスや統計発表も停止されます。
このような「政治の不透明さ」が投資家心理を冷やしてもおかしくないのですが、株式市場の反応は驚くほど落ち着いたものでした。むしろ閉鎖が経済へ与える悪影響は今後の利下げの可能性を高めるという見方が広がり、S&P500は週間で1.09%上昇、6,715.79ポイントで引け史上最高値を更新しました。ナスダック100は一部大型株に利益確定の売りが出ましたが、週間では+1.15%の上げとなっています。
先週10月3日(金)には9月の雇用統計が発表される予定でしたが、政府機関の一部閉鎖で延期となりました。代わりに10月1日に発表されたADP雇用報告など民間データに注目が集まりました。民間雇用者数は前月比で32,000人減少し、一時的に警戒されましたが、「利下げを後押しする材料」と解釈され、株価にはむしろ好材料となったのです。
実際、CME FedWatchによれば次回FOMC(米連邦公開市場委員会)での利下げ確率はほぼ100%に達しています。インフレ圧力が残る一方で、雇用の冷え込みが明確になれば、FRB(米連邦準備制度理事会)にとっては金融緩和に踏み切る理由が強まるという解釈です。
繰り返されてきた米国の「政府閉鎖」、前トランプ政権では35日間閉鎖
日本人の常識では起こり得ないだろう「政府閉鎖」という現象は、アメリカ政治において半世紀近く繰り返されてきた政治イベントです。
その起源をたどると、1970年代に行き着きます。当時、新しい予算制度のもとで議会が期限内に予算を可決できず、政府の資金繰りに「空白期間」が生じる事態が発生しました。1976年から1979年にかけて、この資金の空白は6度も起きました。しかし、当時は法的解釈がまだ曖昧であったため、官庁の業務が完全に停止することはなく、実態としては「閉鎖」というよりも「一時的な資金不足」と表現する方がふさわしいものでした。
状況が一変したのは1980年です。司法省が「予算が失効した場合には、原則として職員を自宅待機させ、業務を停止すべきだ」との意見を出したことで、いわゆる「本格的な政府閉鎖」が現実のものとなります。それ以降、政治的対立が深まるたびに、連邦政府の一部が閉ざされる事態が繰り返されるようになりました。
1980年以降だけでも、この本格的な政府閉鎖は10回に及びます。なかでも最も記憶に新しいのは、2018年12月から翌2019年1月にかけて続いた35日間の閉鎖です。これはアメリカ史上最長で、前トランプ政権が「メキシコ国境の壁」の建設費用を巡って議会と激しく対立したことが原因でした。その間、多くの連邦職員が給与を受け取れず、空港の保安検査や国立公園の管理といった日常に直結するサービスが停滞しました。
今回の政府閉鎖が株価に与える影響は?
今回で11回目となる政府閉鎖において、トランプ米大統領はこれを単なる予算上の対立ではなく、民主党に圧力を加えるための政治的戦略として積極的に利用しています。トランプ米大統領は閉鎖の責任を民主党に転嫁し、「国民の生活を人質に取っているのは民主党だ」との印象を世論に植え付けようとしているようです。実際、公の場で「民主党が譲歩しないから何百万人もの連邦職員が給与を受け取れない」と発言し、国民の不満を民主党へと誘導しています。
さらに、「大量解雇」や「長期閉鎖」といった強硬姿勢をちらつかせることで、民主党に妥協を迫る戦術も展開しています。こうした戦略の背後には、歳出の優先順位、関税政策、移民対策など、自身の主要政策課題を押し通す狙いがあります。
この手法は、2018年から2019年にかけての最長政府閉鎖で「国境の壁」予算をめぐり用いた戦略と酷似しています。当時の経験が先例となり、今回はより巧妙かつ効果的に閉鎖を交渉材料として活用しているように見受けられます。
では、政府閉鎖が株式市場に与える影響について見ると、過去の多くのケースで、閉鎖そのものが株価を大きく動かす要因となることはほとんどありませんでした。投資家は政府閉鎖を「一時的な政治的ショック」とみなしがちであり、むしろ当時の経済環境の方が市場に与える影響は大きかったのです。実際、今回の局面でもVIX指数(恐怖指数)は16前後で推移しており、市場の変動はごく抑えられていると言えます。
総じて、歴史的にみれば政府閉鎖が株式市場に及ぼす影響はおおむね限定的であり、多くの場合は一過性のイベントとして処理されてきました。
しかし、今回の閉鎖に関しては、トランプ米大統領が民主党に対してどのような姿勢を取り、どの程度まで対立を引き延ばすかが読みにくく、その対応いかんによっては市場に想定外の悪影響が及ぶリスクを否定できません。したがって、従来のパターンだけでは説明できない、トランプ米大統領特有の「政治リスク」として注意しておく必要があるでしょう。
