長年履き続けていた登山靴がありました。履き慣れていると思っていたのに、長時間歩くと足が痛みます。「長く歩けばそんなもの」と思い込んでいたのです。ところが先日、登山用品専門店で靴の専門家に相談すると、幅が細く指が長い私の足に合う靴を次々と勧めてくれました。「これを試してみて!」「いや、こっちかも!」と何足も履き比べ、1時間以上かけてようやく「これだ」と思える一足に出会いました。履いた瞬間にすっと馴染み、歩き出すと驚くほど軽やか。その方の「それぞれの足に合う靴が必ずあるから!」という言葉は強く心に残りました。

普段のパンプスも、型が自分に合うと分かってからは同じブランドを選びます。少し腕が長い私はジャケットも決まったお店で買います。人にはそれぞれ個体差があり、ぴったり合うものに出会えた時の喜びは格別。ただし「これが自分に合う」と思い込んでいるだけかもしれません。だからこそ、ときには冒険したり、人の意見を聞いたりすることも大切です。

これは仕事やリーダーシップにも通じます。5年程前、日経新聞「交遊抄」で「ジャイアン」というタイトルの記事にしていただいたことがあります。そのモデルとなった前職の先輩(ジャイアン)に、先日久しぶりに会いました。勇敢で頼りがいがあり、論理的に状況を整理して背中を押してくれる存在。私にとっては、自分の軸がぶれていないかを測る「物差し」でもあります。

人は体も心も個体差があり、環境や時間とともに変化します。だから、自分に合っているか、ズレが生じていないかを確認するために周囲の力を借りることが重要です。思い込みや思考の堂々巡りから抜け出す視点を与えてくれるからです。

靴と同じように、リーダーシップにも「必ず自分に合う形」があるのではないでしょうか。無理して合わない靴で歩けば痛みが出るように、合わないスタイルを続ければ疲れてしまう。だからこそ、ときどき立ち止まって見直し、調整すること。その積み重ねが、長く歩き続ける力につながるのだと思います。