日経平均はほぼ一年ぶりに過去最高値を更新し、現在もその高値水準での推移が続いています。久々に典型的なサマーラリーにあると言えるでしょう。これまで「音楽が鳴っている」状況との見方を示してきましたが、これまでのところはまさにその読み通りの展開となっていると考えます。

株価好調の背景には米国金利の低下観測台頭がありましたが、 8月15日に発表された国内総生産(GDP)が予想以上であったこともその上げ足を速める要因になったと受け止めています。思いの外、景気は堅調なのだという印象です。

また、自民党総裁選の前倒しなどが視野に入ってくる中、政治停滞解消への糸口が見え始めたことも株価下支えになったのではと考えます。自民党総裁選は「選挙は買い」という相場格言の対象外ですが、総裁選が実施された場合、その結果次第では国政選挙もまた視野に入ってくる可能性があるためです。

懸念となっていた第1四半期決算もほぼ出尽くしとなりました。そう考えると、宴の音楽が鳴り止む兆しはまだ当面見えないように思えます。もちろん、急ピッチの上昇への警戒感台頭を含め、「宴の後始末」への準備を怠るべきではありません。音楽が鳴り止む兆しは出ていないか、広い範囲に目を配っておくことが今こそ重要であると位置づけます。

ゲーム株投資の難しさ=ヒット作予想の難しさ

さて、今回は「ゲームソフト」をテーマに取り上げてみましょう。このコラムを始めてもう12年になりますが、実はこのテーマを正面から取り上げるのは初めてとなります。これまでこのテーマに触れてこなかったのは、詰まるところ、ゲーム株投資は個別銘柄のヒット作次第という色が濃く、ゲーム業界全般を包括するテーマがなかなか見つからなかったためです。

しかし、一年前にコンテンツ産業として採り上げ、5ヶ月前には米国関税政策下での投資対象業種としても採り上げるなど、ゲーム業界全体としての注目度は着実に高まってきているように思います。特に、この夏休み期間の「殺人的暑さ」の中、外出するよりも家でゆっくりとゲーム三昧という選択をされた方も少なくないのではないでしょうか。そこで改めてゲームソフト業界について、その見方などをおさらいしておきましょう。

端的に言えば、ゲーム業界の収益モデルは、どれだけ多くのヒット作を輩出できるかにかかっていると言ってよいでしょう。オンライン版であれ、パッケージ版であれ、時間とコストを最も費やしてゲームをまず製作し、それを販売(あるいは課金)によって回収するというビジネス構造にあるためです。しかし、ゲームがヒットしなければコストの回収がままならず、キャッシュの持ち出しが続くということになりかねません。逆にヒットとなれば、(製作以降の追加コスト発生は限定的なために)非常に効率よく資金の回収が進み、それはまた次なる作品の製作原資に充当することができるようになります。

上場しているゲームソフト会社は軒並み高い自己資本比率を誇るなど盤石な財務体質にありますが、概してこれはかつて輩出したヒット作が稼いだ結果であり、それがまた次なるヒット作の製作原資となり、また稼ぐという好循環サイクルの土台となっているのです。

とはいえ、どういったゲームがヒットするのかはなかなか予想ができません。ゲーム会社自身が「当たる」と目してゲームを開発するのは当然ですが、実際にそれが消費者の心を掴むかどうかはかなり「水もの」なのです。これがゲーム会社への株式投資を難しくしている由縁なのです。

レジェンドが存在感を放つ中、新規参入社にもチャンスあり

では、ヒット作の輩出力はどう考えればよいのでしょうか。そもそも次世代を担うような新しい発想や手法を大胆に導入したものは合理的な予想ができません。ある意味、それに魅力を感じるのかどうかという個人の「直感」が重要といえるでしょう。

ただし、合理的な予想も可能です。例えば、過去にどれだけヒット作を輩出できたかというトラックレコードです。これは当該社がどれだけ時代にマッチした視点や開発力・企画力を有しているかを示していると考えられるでしょう。当然ですが、それらヒット作の続編は消費者の関心も自ずと高いものとなるため、ヒットし易いという条件を満たしているとも言えます。

ヒット作を輩出できれば、IP(知的財産)の活用展開といった形でマネタイズポイントも増やすことが可能です。ゲームは斬新な発想と技術を擁した新規参入社が十分戦える領域であると同時に、レジェンド企業もまた強烈な存在感を放つという「下剋上バトルフィールド」とも言えるのです。

PBRとミリオンセラータイトル数から比較する

ここで一つの見方をご紹介したいと思います。以下の図は、時価総額1000億円以上のゲーム会社について、横軸に100万本以上の出荷となったゲームタイトルの数、縦軸に各社のPBRをプロットしたものです。簡便法とはなりますが、ミリオンセラータイトル数はヒット作輩出力を、PBRはそのヒット作から得た潤沢な資金の効率性に対する期待値を、それぞれ示していると考えることができます。

すると、ゲーム以外の要因による株価影響が無視できないソニーグループ(6758)、桁外れで圧倒的なヒット作輩出力を誇る任天堂(7974)を除けば、綺麗に近似線を引くことができます(決定係数は0.88)。

【図表】
出所:筆者作成

この近似線よりも高い位置にあるか、低い位置にあるかによって、同業他社と比較して割高/割安を考えることができるのではないでしょうか。もちろん、ヒット作が過去のモノになっておらず今後も継続的輩出が期待できるのかどうか、新作の製作に真剣なのかどうかといった個別要因を勘案する必要があることはお忘れなきよう。

しかし、ミリオンセラータイトル数を見れば、任天堂の強さが本当によくわかります。なお、世界の累計売上本数シェアでも、500万本以上を売ったタイトルのみの集計ですが、任天堂はその過半を占めています。

任天堂以外では、カプコン(9697)、スクウェア・エニックス・ホールディングス(9684)、ソニーグループ、バンダイナムコホールディングス(7832)、コナミグループ(9766)といった日本の上場企業がこのシェアランキングに名を連ねています。