「超大国」米国の大統領による人事介入

8月1日、米雇用統計が発表され、特に過去分が大幅な下方修正となった。これを受けて、トランプ米大統領は「私に打撃を与えるための不正な行為」などの理由から責任者の解任を指示した。金融市場では「不当な政治的介入により、米経済指標の信認が低下する」という懸念から米ドル売り材料になった。

またこの日、FRB(米連邦準備制度理事会)理事の1人が辞任を発表、その後任をトランプ大統領が指名するところとなった。するとこれも、トランプ大統領がかねてから要求している早期の利下げが実現する可能性が高まる要因として、米ドル売りという反応になった。

全てトランプ大統領の価値判断が基準=関税政策も人事も

このようなトランプ米大統領のFRB人事への介入は、2期目の政権がスタートして以来、これまで続いてきたことだ。その最たる例が、パウエルFRB議長解任の「ブラフ(=はったり、脅し)」だろう。それが最初に大きく注目されたのは4月下旬で、米ドルは急落、一時140円割れとなった。これは、「トランプ米大統領による政治的な介入により、FRBの独立性が揺らぐ懸念」とされた。「米ドルの番人」でもあるFRBの独立性への懸念は、米ドルへの信認低下で米ドル売り材料になったということだろう。

しかし、以上の経緯から、「トランプ米大統領は自身の価値観から人事に積極的に介入する」ということは、すでに金融市場に織り込まれたことではないだろうか。別の言い方をすると、雇用統計責任者の解任、そしてFRB理事の後任人事も、「トランプ大統領は自身の価値観から人事に積極的に介入する」という、これまでに織り込まれた範囲内ということではないか。それが果たして、短期的に新たに米ドルを売る要因になるかと言えば、個人的には懐疑的だ。

「トランプ米大統領は自身の価値観から人事に積極的に介入する」ということは、客観的に見ると米政府の政策への信認を揺るがすことは明らかだろう。そしてそれは人事に限らず、トランプ米大統領を象徴する政策、関税政策によりほぼ再確認されたのではないか。

これまでのような対米関係は無理=継続的な「米ドル離れ」要因か

トランプ米大統領の「米国第一主義」とは、米国にプラスになることをやるということだが、その価値判断はきわめてトランプ米大統領自身が基準になっている。そのように国際ルールもほぼ通用しない米国は、「世界一の経済大国」という巨大な存在には変わりないものの、これまでのように付き合うのはほぼ無理との考え方に、各国がなっているのではないか。

そうであれば、最近の「トランプ人事」も、「トランプらしい」として、想定される範囲内だろう。そしてその想定とは、「米国とはこれまでのような関係を続けるのは無理」であることの再確認、つまり中長期的な「米ドル離れ」の要因ではないか。