1~6月まですべて大幅下方修正だったNFP
8月1日の米雇用統計発表で、これまで発表されたNFPの大幅な下方修正が大いに注目を集めた(図表1参照)。これにより、5~7月のNFPの3ヶ月平均はわずか3.5万人に急減。トランプ政権になってから、当初警戒されたように労働市場が急悪化している可能性が浮上するところとなった。
このようなNFPの大幅修正の一因に、サンプル回答率の低下など集計方法の問題があるとされる。そういう意味では、確かにNFPの大幅修正は、この5、6月分に限ったことではなかったようだ。2025年に入ってからは、1~4月のすべてが比較的大幅な下方修正となっていた(図表2参照)。
それでも、4月までは下方修正された数値も10万人以上だったが、5、6月は一気に1万人台への急減となったことにより、一気に目立つところとなったのかもしれない。
トランプ政権で雇用増加ペースが半減=当初の懸念通りか
これにより、1~6月の修正値に7月の発表値を足すと、1~7月のNFP累計は59.7万人となるため、1ヶ月の平均値は8.5万人と10万人を下回る計算になる。ちなみに2024年のNFPの1ヶ月平均は16.7万人だったので、トランプ政権になってから、NFPはほぼ半減したことになる。
トランプ政権では政府部門の大幅な人員削減や移民の強制送還などの政策により労働市場が急悪化することが当初より懸念されていた。そうした意味で、これまでは「予想以上に強い労働市場」との評価となっていたが、ここにきてそれは、サンプル回答率の低下など集計方法の問題による過大評価の疑いが強くなってきたのではないか。
修正後ADPに近くなったNFP=人事介入で政府発表指標の信頼低下へ?
今回の雇用統計発表を受けて、トランプ米大統領は労働統計局長を解任するとSNSに投稿した。このような人事が実行されると、米政府発表の経済指標は信用されなくなる懸念があるだろう。ノーベル経済学賞を受賞した経済学者のP.クルーグマン氏は、「これからは民間が発表した指標を参考にする」と述べていた。
「民間発表のNFP」とされるのがADP(オートマチック・データ・プロセッシング)社が発表するADP統計だが、2025年これまでに発表されたNFPは、修正後はこのADP統計の結果に近い数字となっていた。ちなみに1~7月の累計値は、ADP統計とNFP修正値がほぼ同じだった。つまり、NFP修正値で明らかになった、前年より雇用増加ペースが半減しているということは、すでにADP統計で示されていたことでもあったわけだ。
集計方法の問題に加え、政府発表の経済指標の信頼を失うような人事介入を行うようなら、これから金融市場はNFPよりADP統計に注目するようになるかもしれない。
