第1のルール=5年MA±2割以上が「急過ぎる動き」
日本の通貨当局は、2022年と2024年に円安阻止のため数回の米ドル売り・円買い介入を行った。この2回の介入には、米ドル/円が過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)を2割以上上回る中で行われたという共通点があった(図表1参照)。
財務省は、1991年以降の為替介入実績を公表している。その中で米ドル/円が5年MAから±2割以上かい離したのはおもに6回あったが、そのうち4回で為替介入が行われた。以上からすると、5年MAから±2割以上のかい離は、「一定期間での急過ぎる為替変動」として、為替市場に通貨当局が介入する大きな目安の1つになっていた可能性が考えられるだろう。
ただし、上述のように6回のうち2回は為替介入が行われなかった。このうちの1つは、2015年にかけてのいわゆる「アベノミクス円安」局面であり、もう1つは2023年だった。
アベノミクスは、日銀の大胆な金融緩和を受けた円安を容認することでデフレからの脱却を目指したものだったので、その時の円安への不介入は例外的な位置付けだったのではないか。では2023年は、なぜ米ドル/円が5年MAを2割以上上回る中でも為替介入は見送られたのか。
第2のルール=前回の高安値を更新する
2023年11月に米ドル/円は151円まで上昇したが、1年前に記録した151円台高値の更新の寸前で反落した(図表2参照)。以上からすると、為替介入のもう1つの条件として、米ドル/円が5年MAから±2割以上かい離した上で、それが前回の高安値を更新するということもあったのではないか。
以上のように、米ドル/円が5年MAを1)2割以上上回る、2)それが前回の高値を上回る、という2つの条件が、この当時日本の通貨当局が円安阻止介入の非公式な「条件」にしていた可能性が考えられる。
そうであれば、2024年にかけて米ドル高・円安が再燃し、4月末にかけてそれまでの高値の151円を更新した局面は、上述の2つの条件を満たしていたことから米ドル売り・円買い介入の再開は必至と見られた。しかし、それが実現しなかったため、米ドル高・円安は加速した。
なぜ、これまで見てきた2つの条件をクリアしたにもかかわらず、日本の通貨当局はすぐに米ドル売り・円買い介入に動かなかったのか。それはもう1つ、つまり「3つ目の介入条件」があった可能性を感じさせる。
第3のルール=過去半年平均から±5%以上かい離する
2022年9月に円安阻止介入が行われたのは、米ドル/円が5年MAを2割以上上回ったことに加え、過去半年平均の120日MAを5%以上上回った局面だった。一方で、2023年に再び151円まで米ドル/円が上昇したものの米ドル売り・円買い介入が結果的に行われなかった局面では、すでに見てきたように米ドル/円は前回の高値を更新しておらず、合わせて120日MAを5%以上上回ってはいなかった(図表3参照)。
この3つ目の条件は、2024年4月末、5月初めの日本の通貨当局による米ドル売り介入を受けて米ドル/円が急落したものの、その直後に当時のイエレン米財務長官の「為替介入はまれであるべき」の発言の後から2ヶ月以上、円安阻止介入が行われなかったことについてもうまく説明できそうだ。
5月初めにかけて、介入を受けた米ドル/円は急落、120日MAから5%以下で推移するまで下落した。しかし、「もう介入はない」との見方などから、6月末にかけて再び米ドル/円は120日MAを5%以上上回ってきた。すると直後に、当時の為替介入の責任者の神田財務官は、「急過ぎる円安に対しては適切に対応する。足下の動きはまさに急過ぎる」と発言、円安阻止委介入再開を強く示唆した。その後7月11日、「米国の反対でもう為替介入はできない」との見方も少なくなかったが、円安阻止のための米ドル売り・円買い介入が再開したのだった。
以上のように見ると、日本の通貨当局による為替介入には非公表ながら「ルール」があるのではないかと考えられる。具体的には、
1)米ドル/円が5年MAから±2割以上かい離する
2)前回の高安値を更新する
3)米ドル/円が120日MAから±5%以上かい離する
という主に3つのルールを満たしたところで、為替介入は行われるということだ。
