5月は、米ドルに対してアジア通貨が急騰

・米国からの円高圧力はあったのか。米ドル/円の週足チャートをみると、1月に158円を付けた後、4月にかけて139円まで米ドル安・円高に。この円高の裏で米国の圧力はあったのか考えてみる。

・米ドルに対するアジア通貨の動きを整理すると、4月下旬、加藤財務大臣とベッセント米財務長官とで初めてとなる対面の日米財務相会談が行われた。そこでは通貨目標などの要請はなかったとされている。5月に入ると、5日には台湾ドルが急騰、上中旬には韓国ウォンも急騰し、米国から通貨高を要請されたとのうわさが流れた。政府は否定するものの、韓国では何度か報道が流れ、介入情報の開示を求められたという話もあった。5月下旬には、2度目の日米財務相会談が行われた。ここでも米国から具体的な為替水準などの話はなかったとされている。

・日本と韓国・台湾とは何が違うのか。それは通貨の上昇率の違いである。2025年に入ってから4月までの対米ドルでの最大上昇率を比較すると、日本は最大13%。一方韓国は5%未満、台湾は3%程度と大きく異なる。

・対米ドルでの5%程度の上昇を日本円に置き換えると、150円である。日米財務相会談が行われた4月下旬の為替レートは142円である。もし、このとき150円以上の円安で財務相会談が行われていたとしたら、状況は違っただろう。

・以上のように比較してみると、米ドル/円だけは3月には比較的円高になっており、4月に入ってからは関税ショックで一時「米国売り」になり、米ドル危機の懸念もあったため、圧力はかけないとなったのではないか。一方、韓国ウォン、台湾ドルの4月末までの対米ドル上昇率は5%未満。米ドル危機といえる状況にもかかわらず、韓国ウォン、台湾ドルがそれほど上がらないのはなぜか。為替介入、通貨安に誘導しているのではないかとなったのではないか。

2025年1月末以降の日本の異例な金利上昇

・では、円高にはまったく関与していなかったのかというと、それは違うだろう。4月からは円高というより、米ドル安・米ドル危機ともいえる状況になった。それは日米の金利差が縮小する中で起こった。これはどういう形でおこったものか。

・米ドル/円の値動きと日米の10年債利回りを重ねると、2025年1月まではほぼ重なっていたが、1月末以降、異例の大幅かい離となった。

・先週(5月26日週)、ある政府関係者に会い「3月までに円高圧力はあったのか」と聞いたところ、「それはなかったのではないか」との回答だった。「この金利の上昇は不自然では」とさらに聞くと、「それは日銀が1%まで金利を早く上げようと思ったからではないか」と。円高圧力があったかどうかは不明だが、このあたりの時期から、日銀が年内に1%まで金利をあげるという方針を固めたのではないか。

・先進国の政策金利を比較すると、2%未満は日本だけである。日銀は1月に利上げし、政策金利は0.5%に引き上げられた。それを(金融政策が反映される)2年債利回りが織り込み、1月末から金利が急上昇し、あっという間に0.9%程度まで上昇した。

・では、この時期に何があったのか。2月7日に石破首相とトランプ米大統領による日米首脳会談が行われた。1月28日にベッセント米財務長官が議会で承認され、その後矢継ぎ早に加藤財務大臣、植田日銀総裁とオンライン会議を実施。その前後から、1%の利上げを織り込みに動いている。これらすべてを総合して考えると、米国から圧力があったので、日銀は年内に金利を1%まで上げると急に「タカ派」化し、その結果、金利差が大きく縮小し、円高になったのではないか。2月初めの米ドル/円の水準は155円だった。

・日米通貨交渉において円高圧力があったのか、なかったのかという議論で一番抜けている視点が為替水準である。そこに注目すればクリアになる。