スーパーコンピュータの1億倍以上の処理速度が可能に
一時話題となっていた量子コンピュータが改めて注目されている。世界はもとより、日本企業や研究機関での課題解決や開発が前進しつつあることが背景にある。
量子コンピュータとは、物質を構成する原子や電子などの「量子」の持つ性質を利用して情報処理を行うコンピュータのこと。一般的なコンピュータのビットは「0」か「1」の値で認識するが、量子ビットは「0」でもあり「1」でもあるという認識(重ね合わせ状態)で、これにより計算量が飛躍的に増加する。
現在のスーパーコンピュータの1憶倍以上の処理速度が可能になるとの見方もある。従来のコンピュータでは処理が困難だった複雑な問題を短時間で解決できるため、物流の最適化、暗号の解読、創薬などでの進展が期待されている。
計算エラーを克服できれば実用化も近い
一方で課題もある。量子ビットは壊れやすく、計算に使うとエラーが起きてしまうことだ。量子コンピュータは計算が迅速になる分、1つのエラーが致命的な問題となる。正確さを得るために必要なのがエラー訂正だ。具体的には、計算に使う量子ビットに隣接して設置する補助役の量子ビットを用いて、エラーの有無をチェックして見つける。解決には技術的なハードルが高いとみられていたが、これを乗り越えつつあるようだ。
米アルファベット[GOOGL]やアマゾン・ドット・コム[AMZN]はそれぞれ、計算エラーを訂正する新型チップを開発した。マイクロソフト[MSFT]やアイビーエム[IBM]も対応するチップを開発している。
量子コンピュータを巡ってはエヌビディア[NVDA]のファンCEOが早期の実用化に懐疑的な見方を示し、関連銘柄の株価が一時急落した経緯がある。計算エラーを克服できれば、実用化が近いことが徐々に明らかになりつつある。
内閣府も開発を後押し
日本でも政府が後押しして量子コンピュータの開発を支援している。内閣府は日本発の破壊的イノベーション創出を目指して、大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発(ムーンショット)を推進しており、この中に量子コンピュータも含まれている。
これは2050年ごろまでに大規模化を達成し、誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現するという壮大な計画で、まず2030年までに一定規模のNISQ(中小規模の汎用)量子コンピュータを開発するとともに実効的な量子誤り訂正を実証することが目標だという。
こうした中で、大阪大学やアルバック(6728)などは日本製の部材のみを使って開発した初の純国産量子コンピュータを、8月にも大阪・関西万博で公開すると報じられている。一方、富士通(6702)は4月22日に理化学研究所と共同開発した量子コンピュータの計算能力を高めて稼働したと発表。日本企業の活躍が期待される。
量子コンピュータ関連企業をピックアップ
富士通(6702)
2025年4月、国立研究開発法人理化学研究所(理研)と、世界最大級となる256量子ビットの超電導量子コンピュータを開発したと発表。計算能力が従来の64量子ビットから4倍に拡大したことで、さらに大きな分子の解析や、エラー訂正アルゴリズムの実装と実証実験が可能になる。2025年第1四半期中に企業や研究機関向けに提供を開始するとしている。
アルバック(6728)
真空技術を応用した大型液晶製造装置などで成長。半導体装置にも進出している。2025年3月、量子コンピュータ向け次世代希釈冷凍機を開発したと発表。量子コンピュータの中核をなす超電導量子ビットは、絶対零度に近い極低温環境でのみ機能し、ここに使われるのが希釈冷凍機と呼ばれる特殊な冷凍機だ。コア技術を自社開発し、一貫した製造体制を有しているという。2026年初頭の産業展開を目指す。
日本電信電話(NTT)(9432)
IOWN(アイオン)構想を主導。IOWN構想とは、NTTが発明した「光電融合技術」を用いることで大容量、低遅延、低消費電力を実現し、現在のネットワークでは実現できない革新的なネットワーク基盤・情報処理技術の構築を目指すものである。量子コンピュータへの応用が期待されている。2024年11月には理化学研究所などとともに新方式の量子コンピュータを開発したと発表。
日立製作所(6501)
2025年3月、分子科学研究所などとともに、新型の量子コンピュータを2025年中に稼働すると報じられた。「中性原子方式」と呼ばれる国内初となる原子を使う方式で、世界トップ水準の性能になるという。中性原子方式は1つの原子を量子ビットとして計算に使う。
フィックスターズ(3687)
スーパーコンピュータなど高性能コンピュータの処理性能を向上させるソフトウェア高速化サービスが主力。量子コンピューティング活用支援を手掛けている。物流、創薬、金融などで膨大なデータを必要とする「組み合わせ最適化問題」の領域で、研究開発から実践的な実務応用まで幅広い支援が可能としている。
