日本証券業協会は3月19日、NISA(少額投資非課税制度)の買付額が政府目標の56億円を達成したと発表しました。2027年までの目標額に対して、3年弱前倒しで到達したことになります。買付額が順調に増えるのはよいことですが、投資家がNISA口座で購入した投資信託などを長期で保有し続けられるか、残高が積み上がっていくか、がポイントです。

例えば、2024年8月初旬に株価が大きく下がった局面では、人気を集めている投資信託も一時的に解約が増え、資金が流出した場面もありました。投資では、短期的な価格変動を受け入れて、長期的なリターンを享受すること、投資信託や株式を長く保有し、頻繁に売買しないことが大切です。

ところが、現実にはこれが難しいもの。感情が先に立つと、保有する投資信託や株式などの価格が急落すると怖くなり、手放したくなってしまうからです。

では、どうしたらよいでしょうか。

事前の準備が大事!

地震が起こってから、「家に水は置いてあったかな?」「避難場所はどこ?」などと考える人はいないですよね。日頃から万一に備えて、避難場所や経路を確認したり、水や食料、簡易トイレなどの災害グッズを用意したりしているはずです。投資についても同様で、「相場が急落してどうしよう」と慌てるのではなく、事前に下がった時の対処法を検討していくことが大事です。

具体的には、経済的にも心理的にも、どこまで下がっても耐えられるかをイメージしておくこと。その際、パーセントではなく、金額で把握することがポイントです。

投資方針書を作成しておく

感情に左右されないためには、きちんとルールを決めて、それを淡々と実行するのが一番です。例えば、自分なりの「投資方針書」を作成しておき、不安になったときにはそれを読み返すと効果があります。つまり戻るべき場所を作っておくことです。

これは『敗者のゲーム』などの著書があるチャールス・エリス氏や投資教育家の岡本和久氏なども勧めている方法です。投資方針書というと難しそうに感じますが、要は「自分がどういう方針で運用するか」をまとめておくものです。以下に例を示しました。

【投資方針書の例】
●目的:リタイアまでに老後のお金をつくる
●運用期間:60歳までは積極運用、その後は株式の比率を下げる
●運用方法:投信の積み立て(iDeCoやNISAを優先的に利用する)
●配分:リスク資産と無リスク資産(預金)が半々になるようにする
●商品:積み立てるのは日本株と日本を除く世界株のインデックスファンド。それとは別に、課税口座で個人向け国債を保有する
●チェック方法:年に一度、年末に配分と時価評価額をチェックする
●その他:万一に備えるお金として、生活費の半年分は預金に置いておく
など

投資方針書の項目はあくまでも一例なので、自分のまとめやすい項目や書き方でOKです。あとから、必要な項目を付け加えたり、見直しをしたりすることも可能です。

私は、投資信託の積み立てをメインにコツコツ資産形成を行う投資家へインタビューを行っていますが、実際に「投資方針書」の作成を実践している人もいます。結婚などを機に、1人ではなく、ご夫婦で投資方針書を練り直したという人もいれば、毎年、年末に「投資方針書」を確認している、という人もいました。メモ程度でもよいので、ぜひトライしてみてください。投資は未来の不確実さと向き合っていくものだからこそ、自分で決めた投資スタンスを守ることが賢明です。

価格ではなく、価値に注目

株式投資というのは本来、その企業の価値を評価して買うべきものですが、価格に注目が集まりがちです。例えばリーマン・ショックや東日本大震災のときは、直接その影響を受けない企業の株まで一緒に売られました。短期的には市場参加者の心理的な要因で動くことも多いからです。

短期的に大きく下がる局面でも、投資信託という器を通して、その先の投資している企業の価値が将来的に高まると考えられるでしょうか。そういう意味では下がったときでも持ち続けられる企業や投資信託をきちんと選んでおくことも大切です。

モーニングスター・ジャパンのリポートでは以下の指摘もありました。肝に銘じたいものです。

「投資家は、流行りのファンドをパフォーマンスを追いかけて購入したり、ファンドを短期的に売買するのではなく、長期投資の観点でファンドを選択し保有し続けることが、最終的には良い投資成果をもたらすであろう」(「Mind The Gap/日本版 2024年 日本の個人投資家は賢明か?!」)