エコノミストやアナリスト等は、たいてい予想レンジの平均値でコメントします。スタンスをわかりやすく発信するためにはやむを得ないのですが、一方で、投資家の方々の大きな関心事は、「外れたらどこまで行くのか」というダウンサイドリスクです。
そこで今回は、確率は低いが影響は大きいという2025年度の『ブラック・スワン』候補を3つほど挙げたいと思います。
まずは日本の金利。現在の10年国債利回りは1.58%で、来年度末のコンセンサス予想も1.7%程度と推定されます。しかし、ブラック・スワン・シナリオでは2.0%超までの上昇もあり得ると思われます。理由は日本の個人のインフレ予想が上昇していることや、政策や人手不足等による賃上げ継続等です。逆に、FRBは、早期の大幅利下げ開始がブラック・スワンでしょう。これが同時に発生すれば、再度円高に向かう可能性もあります。
米国では、個人ローンがブラック・スワンの一つです。コロナ期の優遇が事実上続いている学生ローン問題が最大の難関です。学生ローンの残高は270兆円。トランプ政権はこの問題の打開策は発表していませんが、今月初め、「不適切な活動」を行った場合学生ローンの返済免除を取り止めるとする大統領令に署名しました。また住宅についても、米国の住宅ローンの7割(現在の残高で1000兆円以上)を担う機関(GSE)の民営化や、これに伴う住宅ローン市場の混乱が火種です。
最後に、世界の株式市場の「地盤沈下」です。短期的には、世界の貿易戦争等の不確実性、経済成長率やマネーサプライと比較した米株価の割高感の揺り戻しで、1割以上の調整があっても不思議ではないでしょう。さらに中期的には、株式市場の構造変革もあり得ます。近年は、株式を上場せずに、NBFI(ノンバンク金融仲介業)等からの投融資を受け、非上場のまま自由度の高い経営を志向する企業も増えています。NBFIの規制強化の議論もありますが、実施にはまだ数年かかるとみられ、その間にもNBFIに支えられた非上場成長企業が伝統的な株式市場のプレゼンスを脅かすようになる可能性もあるでしょう。
これらについて、来年また振り返りを…とも思うのですが、実は、私の業務の関係で、このコラムの担当は今日が最後となります。
昔、尾崎紀世彦さんという歌手が大好きでした。昭和歌謡のキングです。コラムの最後はやはり彼の代表曲で締めくくらせてください。
『また逢う日まで、逢える時まで』
またいろいろなところでお目にかかれればと思います。
そして、マネックスをこれからも宜しくお願いします!
※4月2日より、水曜日はコインチェック株式会社執行役員の大塚 雄介がつぶやきを担当いたします。
- 大槻 奈那
- ピクテ・ジャパン株式会社 シニアフェロー
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内外の金融機関、格付機関にて金融に関する調査研究に従事。Institutional Investors誌によるグローバル・アナリストランキングの銀行部門にて2014年第一位を始め上位。政府のデジタル臨時行政調査会、財政制度等審議会委員、規制改革推進会議議長、中小企業庁金融小委員会委員、ロンドン証券取引所グループ(LSEG)のアドバイザー等を勤める。日本経済新聞「十字路」、日経ヴェリタス「プロの羅針盤」、ロイター為替フォーラム等で連載。日経Think!エキスパート・コメンテーター、テレビ東京「モーニングサテライト」で解説。名古屋商科大学大学院 マネジメント研究科教授 東京大学文学部卒、ロンドンビジネススクールMBA、一橋大学博士(経営学)
著書:
『本当にわかる債券と金利』(日本実業出版社)、
『1000円からできるお金のふやし方』 (ワニブックス)
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