2024年3月17日(月)21:30発表(日本時間)
米国 小売売上高
【1】結果:プラス圏に回復し米消費の底堅さを示す
小売売上高(前月比)
結果:+0.2% 予想:+0.6%
前回:-1.2%(速報値-0.9%から下方修正)
自動車・同部品除く小売売上高(前月比)
結果:+0.3% 予想:+0.3%
前回:-0.6%(速報値-0.4%から下方修正)
コントロール・グループ(自動車、ガソリン、外食、建設資材除く小売売上高・前月比)
結果:+1.0% 予想:+0.4%
前回:-1.0%(速報値-0.8%から下方修正)

米国では、個人消費がGDP(国内総生産)の約7割を占めることから、その動向を確認できる小売売上高に注目が集まります。
今回2月の小売売上高は前月比+0.2%となり、市場予想(+0.6%)を下回りましたが、前回の-1.2%(速報値-0.9%)から持ち直し、米消費の底堅さが示される結果となりました。
また、自動車の販売はセールなどの影響で月ごとに大きく変動するため、自動車を除いた小売売上高に注目が集まりましたが、結果は前月比+0.3%で市場予想と一致し、前回結果の-0.6%(速報値-0.4%)を上回りました。
一方、GDPの算出に間接的に用いられるコントロール・グループ(季節変動の大きい自動車、ガソリン、外食、建設資材を除いたコア小売売上高)は、前月比+1.0%と市場予想(+0.4%)を大きく上回りました。ただし、前月分については速報値の-0.8%から-1.0%に下方修正されています。
なお、今回の結果を受け、アトランタ連銀のGDPNow(短期予測モデル)では、前月分の下方修正などが響き、2025年第1四半期の実質GDP成長率(季節調整済み年率)の推定値が-1.6%から-2.1%に下方修正されています。
【2】内容・注目点:無店舗小売が全体をけん引 外食など裁量的支出は弱含み
売上増が目立ったのは無店舗小売やヘルスケア
図表2に示されているように、2月の小売売上高は13項目中6項目で増加し、1月の4項目を上回りました。

今回、特に売上増が目立ったのは、アマゾンなどのECサイトに代表される無店舗小売(+2.4%)やヘルスケア(+1.7%)でした。
図表3の通り、これまでの米消費(コントロール・グループ)は無店舗小売に支えられてきた側面も大きく、今回の無店舗小売の増加は安心材料の一つと言えるでしょう。
ただし、今回の無店舗小売の増加は、前回が-2.4%と大きく減少していたため、その反動増と言えるほか、関税政策による値上げを見越した駆け込み需要が影響した可能性もあり、引き続き無店舗小売の基調は注視していく必要があります。

売上減が目立ったのは外食とガソリンスタンド
一方、売上減が目立ったのは外食(-1.5%)とガソリンスタンド(-1.0%)でした。
ガソリンスタンドの売上減は、WTI原油先物価格の下落を反映したものと考えられ、各種物価指標でもガソリン価格の低下が確認されています。
気になるのは、小売売上高の唯一のサービス支出項目である外食の売上減です。図表4に示されている食事に関する小売売上の動向を確認すると、コロナ禍以降、外食の売上(図表4の青緑色線)は減少し、食料品の売上(図表4の黄土色線)は増加している傾向が続いていることが分かります。消費者が外食を控え、家庭での食事を増やすことで、より節約志向の消費行動を選択していることが示唆されます。

外食の売上高の減少は、対面サービスを提供する労働者の必要性が減ることを間接的に意味しており、一部業界での労働需要の低下(労働市場の冷え込み)が懸念されます。
その他、スポーツ用品など趣味(-0.4%)や雑貨(-0.3%)など外食以外の裁量的支出項目についても、売上減となっており、米消費者の裁量的支出は全体的に力強さに欠ける印象です。
【3】所感:ひとまず安心感のある結果だが、GDPNowは下方修正され引き続き要警戒
今回の小売売上高は、総合が市場予想を下回った一方、コアは予想通り、コントロール・グループは予想を上回り、強弱が入り交じる結果となりました。また、市場ではこのところの関税政策などの不確実性の高まりから景気減速懸念が強まっていたなかで、警戒されたほどの悪化は示されなかったことから、一定の安心感が広がりました。
3月17日の株式市場でも、消費減速への過度な懸念が後退したことで、景気敏感株を中心に幅広い銘柄が買われて主要3指数は続伸となりました。
ただし、コントロール・グループの堅調さとは裏腹に、アトランタ連銀のGDPNowは-1.6%から-2.1%へと下方修正されており、景気減速懸念は依然として残る状況にあります。実際、今回のコントロール・グループの増加は無店舗小売の反動増に支えられた側面が強く、外食などその他の裁量的支出は力強さを欠きました。
今後も米国の消費動向には慎重な見極めが必要であり、関税政策の動向とともに、月末に発表されるコンファレンスボード消費者信頼感指数などのソフトデータを組み合わせた分析が求められるでしょう。
フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐