日本単独介入判断の3つの条件=「行き過ぎ」を逆手に取る

日本の通貨当局は、2022年、2024年と断続的に円安阻止の米ドル売り・円買い介入を行った。そしてそれ以前の為替市場への介入は、2010~2011年にかけて断続的に行われた円高阻止の米ドル買い・円売り介入だった。以上の為替介入の開始は、すべて米ドル/円が5年MA(移動平均線)を±2割以上かい離した水準だった(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の5年MAかい離率(1990年~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

米ドル/円には、5年MAから±3割を大きく超えてかい離しないという実績があった。その意味では、この介入と5年MAとの関係は、巨大な為替市場で行き過ぎた相場の流れを変えるため、為替介入がその相場の行き過ぎを逆手に取ることを意識した可能性を感じさせる。

短期より長期の「行き過ぎ」を優先する=前回の円安値更新も意識

また、2022年以降の米ドル売り・円買い介入は、すべて120日MAを5%以上上回った水準で行われていた(図表2参照)。これは、「行き過ぎ」を逆手に取るうえで、5年MAなどとの関係で示される長期的な「行き過ぎ」だけでなく、120日MAなどとの関係で示される短期的な「行き過ぎ」も意識していた可能性があったのではないか。

【図表2】米ドル/円の120日MAかい離率(2022年~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

この120日MAとの関係で見ると、2022年は9月に米ドル売り介入を始める前にも、米ドル/円が一時120日MAを10%以上も上回る局面があった。しかしここでは米ドル売り介入は行われなかった。それは、当時はまだ米ドル/円が5年MAを2割以上上回る動きになっていなかったためではないか。そうであれば、当局の介入判断において「行き過ぎ」を意識する上では、短期よりも長期の「行き過ぎ」を優先するという優先順位がある可能性を感じさせる。

また2023年は、一時米ドル/円が5年MAを2割以上上回った上で、120日MAを5%以上上回った。つまり短期・長期の「行き過ぎ」条件をともにクリアしたにもかかわらず、結果的に米ドル売り介入は行われなかったがそれはなぜか。2023年は、結果的に前回の円安阻止介入局面における米ドル高・円安のピークをわずかながら更新しなかった。その意味では、前回の円安のピーク更新というのも、円安阻止介入の条件の1つだったのかもしれない。

未だ3つの条件をクリアせず=単独介入なら「失敗」の危険

以上を整理すると、これまでの日本の為替介入から、当局は介入判断で1)長期の「行き過ぎ」=米ドル/円が5年MAを2割以上上回る、2)短期の「行き過ぎ」=米ドル/円が120日MAを5%以上上回る、3)前回の円安値更新、以上3つの条件を意識してきた可能性がありそうだ。

足下の米ドル高・円安は、この3つの条件を1つもクリアしていない。その意味では、短期及び長期の「行き過ぎ」を逆手にとって円安を反転させるという考え方からすると、円高への反転に失敗する懸念がありそうだ。

円安放置を容認せず?=米政権主導なら協調介入へ

ただし、トランプ政権の通貨政策の責任者であるベッセント米財務長官は、2025年6月に公表した為替報告書のコメントで、「トランプ政権は、米国との不均衡な貿易関係を助長するマクロ経済政策はもはや容認しないと貿易相手国・地域に警告してきた」と述べていた。

その上で、一部のメディアは2026年1月23日に行われた介入の前段階と理解される「レートチェック」が日米協調で行われたことについて、ベッセント長官が主導し、協調介入も視野に入れていたと報じた。以上から考えられるのは、トランプ政権内には過度な円安放置を容認しないという考え方もある可能性だ。

日本単独の円安阻止介入なら、「行き過ぎ」を逆手に取ることを意識する必要がある。しかし、米国も協調する形で円安の反転に動くという戦略なら、これまでの3つの条件のうち、3)前回の介入局面における円安値を更新する、という条件をクリアすることだけ、つまり161.9円を超えて米ドル高・円安が進んだ場合、日米協調介入が実現する可能性はあるのかもしれない。