日経平均は狭いボックス圏での推移が続いています。米国新政権が実際に発足したことで買いが入りやすい状況にはなったものの、その一方で実質賃金のマイナス継続や「停滞感の強い政治」への先行懸念が上値を重くしているというところでしょうか。前回コラムでも解説しましたが、方向感のない一種の「閑散相場」といった状況に変化はまだ見られないという印象です。
2月7日には石破-トランプ会談も予定されていますが、引続き、米政権の政策に振り回される状況が継続すると言わざるを得ないでしょう。国内政治でも予算審議は紛糾する可能性が否めません。第3四半期決算にサプライズはないと考えますが、材料を見る限りはまだ株価の上値は重いのではと懸念しています。嵐の前の静けさから一気にモノゴトが動き始め、株式相場も波乱の展開といったシナリオ発生は否定しないものの、そのタイミングはまだもう少し先になるのではと考えています。
八潮市の道路陥没事故は下水道管の損傷が一因
さて、今回は「インフラ設備の老朽化」をテーマに採り上げてみたいと思います。このテーマは丁度1年前にも採り上げていたのですが、先日に発生した恐ろしい事件を受け、再度議論をしたいと考えました。
1月末、埼玉県八潮市で突然道路が陥没し、走行中のトラックが穴に転落しました。穴は時間の経過とともに拡大し、救助隊は手を尽くしつつも、事故発生から1週間以上を費やしても転落した運転手の救助には至っていません(本原稿執筆時点)。運転手が無事であることを祈り、とにかく一秒でも早い救出を願って止みません。
同時に、いきなり足下の地面が陥没するという恐怖が実は身近に潜んでいることを思い知らされたという方も少なくないのではないでしょうか。しかも、一旦陥没が発生し、そこへ転落してしまうことになると、これほどの難儀になるという現実は考えるだけでも恐ろしいことです。また、事故地域周辺のみならず、より広範囲の地域の生活インフラにも影響を及ぼすという状況を見れば、他人事とは決して言えません。
この道路陥没の原因は、地中の下水道管が老朽化により破損したことが原因の一つとされていますが、この見立てが正しいとすると、1年前のコラムでの指摘は、この時の予想以上に差し迫った危機であると言うことができるかもしません。
「まだ先」という正常化バイアスにとらわれるリスク
1年前のコラムでは、橋梁や上下水道などでは老朽化が急ピッチで進んでおり、これから深刻な問題になる見通しと問題提起をしていました。今回の事故はこの認識よりも遥かに実態は厳しい状況にあったことを考えると、この時の認識はまだまだ甘いものであったと受け止めています。
この時は、首都、東名、名神などの主要高速道路はいずれも既に60年近い歴史を刻んでおり、また全国に約1.1万本あるトンネルの22%は建設後50年以上が経過済であり、2030年にはこれが36%まで上昇するとの見通しを示しました。2021年時点で73万あるとされる橋梁では、その32%、2031年には57%が建設後50年を経過するという予測も紹介しています。
水道では、下水道においては、総延長距離約49万キロの下水道管渠のうち、2021年時点で50年を経過したものは6%ですが、2031年には18%、2041年には40%へと加速度的な上昇が予測され、上水道では総延長約73万kmの水道管路のうち、法定耐用年数を超えた管路は2019年度時点で19%にも到達しているというデータを示しました。
この時は概して、大きな問題になる見通しではあるものの、「まだ先」というスタンスでした。今回の事故はまだ比較的老朽化比率が低い下水道管渠が原因であったということは、「比率が低いからまだまだ先」と思っても安心できるものではないということを如実に示しています。同時に、一旦事故が起こってしまうと、大事故になるだけでなく、周辺地域を巻き込んで混乱が拡がるということも予想以上でした。どうしても先のこと、それほど大したことではないなどと思いたくなってしまいますが、そうした「正常化バイアス」にとらわれてしまうことのリスクを真摯に認識しておくべきなのでしょう。
事故を繰り返さないために、より迅速な対応へ
あまりにも直接的・間接的影響が大きいことを受け、地方自治体は今後、より迅速な事故対応へのマニュアルを整備すると同時に、老朽化に関してのより厳密な調査に急遽着手することになると考えます。老朽化比率が低いからといって安心できないことは今回の事故で明らかになりました。いつどこのインフラが破損してしまうかの合理的な予測が難しい中、網羅的な調査とこれまでよりも厳しい基準で見た危険個所の把握、そして対応を急ぐことでしょう。こうした動きはなかなか一般市民には見えてことないかもしれませんが、今回の事故を繰り返さないためにも、自治体の動きは早いものになるはずと考えます。
前回のコラムでは、そのようなインフラ老朽化対策において、交通領域ではスーパーゼネコンである清水建設(1803)、大成建設(1801)、大林組(1802)、鹿島建設(1812)や準大手ゼネコンのうち土木売上の比較的高い戸田建設(1860)、熊谷組(1861)、三井住友建設(1821)、西松建設(1820)、安藤・間(安藤ハザマ)(1719)、五洋建設(1893)など、プレストレスト・コンクリート(PC)橋梁領域で大手とされるオリエンタル白石(1786)、ピーエス・コンストラクション(ピーエス三菱から社名変更)(1871)、富士ピー・エス(1848)などが重要な役割を担うのではないかと考えました。
上下水道関連では、鉄製鋳鉄管ではクボタ(6326)、栗本鐵工所(5602)、日本鋳鉄管(5612)が、プラスチック製では積水化学工業(4204)、旭有機材(4216)、前澤化成工業(7925)などの存在感が中でも高いと言えるのではないかとも解説しました。
これ以外に、今後加速を予想する下水管の調査・工事といった視点では、NJS(2325)、日水コン(261A)、メタウォーター(9551)、大盛工業(1844)、コンクリートヒューム管大手の日本ヒューム(5262)といった企業にも期待したいところです。ただし、いずれも急ぎの対応が求められると考えられます。人的にも機能的にも余裕のある大手か、小粒ながらでも機動性のある企業などは特に注目度が高くなるものと考えています。