前回のコラムでも懸念した通り、日経平均はじりじりと値を切り下げてきました。トランプ大統領就任前でなかなか買いの手が出難い状況にあった上、日本でも政治的な迷走感の台頭から様々なことが「決まらない」状況への嫌気もあり、閑散相場になってしまっているように感じます。
ただし、今後はトランプ新政権発足に加え、国会でも予算審議が始まります。金利動向も動きが出てきそうになってきました。これまでは嵐の前の静けさとも言える状況でしたが、一気にモノゴトが動き始める可能性があります。株式相場も波乱の展開となってもおかしくありません。当面は待ち伏せというよりもファーストリアクションを受けての順張りを投資戦略の基本に考えておきたいところです。
トランプ大統領の政策方針
さて、今回はまさにその「トランプ新政権」を取り上げてみましょう。先日、トランプ氏が47代米国大統領に正式に就任しました。いわゆる、トランプ2.0が始動したことになります。
トランプ大統領は大統領選挙中から就任後直ちに実施する政策を幾つか明らかにしてきました。主だったものを挙げると、移民問題の強化、パリ協定の再離脱と石油・ガスへのエネルギーシフト、ロシア・ウクライナ戦争の停戦、中東問題の解決、暗号資産関連の推進、そして関税の実施などでしょうか。
第一次トランプ政権で氏は大統領選で掲げた公約を(よく言えば)愚直に実行してきた印象があります。トランプ2.0においてもこのスタンスに変更がないとすれば、これらの政策は高い確率で実行されるのではないかと考えます。実際、いくつかの政策はさっそく大統領令として発布されることとなりました。いずれも影響はアメリカ国内に留まらず、世界的にそのインパクトは伝播することになるでしょう。ここではこうしたトランプ2.0が日本企業にどのような影響を与えることになるのかをまとめてみたいと思います。
関税:米国への輸出ビジネスの逆風に
まず直接的なインパクトとなるのが関税でしょう。関税設定の主たる目的は米貿易赤字の削減です。輸入品に関税を課すことで、輸入品の競争力を低下させ、国内品への代替を喚起し、結果的に貿易赤字を圧縮しようというのが狙いとなります。
2023年の米国の国別貿易収支では、中国、EU、北米(カナダ・メキシコ)、日本が貿易赤字の上位4ヶ国・地域であり、この4ヶ国・地域の貿易赤字額は赤字総額の8割を占めています。関税はこのような(米国から見た)貿易赤字国・地域からの製品に焦点が当てられるということなのでしょう。
当然、これは日本から米国への輸出ビジネス、あるいはUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)を利用したカナダやメキシコからの米国輸出において、強烈な逆風となる可能性があります。日本から米国への主要輸出製品は自動車及び自動車部品、建設/鉱山機械、半導体製造装置、科学光学機器などです。これら業界の企業群では、トランプ2.0の関税政策の落としどころが大きなビジネスリスクになりかねないと懸念しています。
エネルギーコストは低下の可能性
一方で、エネルギーコストは低下する可能性があります。トランプ2.0では原油や天然ガスの採掘加速が予想され、これらエネルギーの輸出増(=貿易収支の改善)を図ろうというする動きも見え隠れしています。パリ協定離脱となれば、これまで躊躇のあった化石燃料の活用にも踏み切りやすくなるのかもしれません。地球温暖化対策の後退という懸念は残るものの、エネルギーコストの世界的な上昇が様々な景気圧迫要因となっていることも確かです。
トランプ2.0ではこうした膠着状態に風穴を開ける可能性があることは留意しておくべきでしょう。もちろん、この政策は賛否両論を巻き起こす可能性があります。特に日本において「地球温暖化対応」は揺るぎようのない至上命題という認識が浸透しており、このようなアプローチに違和感を覚える向きは少なくないと推察します。
しかし、世界的にはもっとドライに、それはそれ、これはこれというスタンスで地球温暖化を捉える層が少なからず存在しています。このようなアプローチも世界では許容する動きがあることは(日本においてはやや理解し難いかもしれませんが)認識しておきたいところです。
各国に波及する防衛費の増大
他方、各地の停戦期待については、ガザではひとまず停戦合意となったものの、どこまで実現されるのかはまだ不透明というところです。トランプ2.0ではそのような地政学リスクの高まりに対し、当該国・地域に相応の防衛力強化を求めてくる可能性があります。実際、トランプ大統領はNATO各国に対し、GDPの5%程度を防衛費とするよう要求しているとの報道もあります。
日本は2027年までにGDP比2%へ防衛予算を引き上げる方針を決定していますが、この流れが日本にも波及すれば、それでは到底足りないといった見方が出てくるかもしれません。すでに防衛関連銘柄は注目されつつありますが、トランプ2.0において防衛予算の積み増しとなると、一段と注目される余地が広がってくるものと予想しています。
防衛省への納入金額の多い企業をリストアップすると、三菱重工業(7011)、川崎重工業(7012)、日本電気(NEC)(6701)、三菱電機(6503)、富士通(6702)、ダイキン工業(6367)、東芝、 IHI(7013)、SUBARU(7270)、日立製作所(6501)、沖電気工業(6703)、小松製作所(6301)、ENEOSホールディングス(5020)、日本製鋼所(5631)、ジーエス・ユアサ コーポレーション(6674)、出光興産(5019)、新明和工業(7224)などが挙げられます。また、防衛費増額の内容はサイバー領域やドローン領域など、これらの企業群以外にも広がる可能性もあると考えています。
ただし、これらはいずれもこれから種々の交渉で大きく落としどころが変わってきます。金利動向を考えると、為替の変動も想定しておくべきでしょう。ここでご紹介した日本企業への影響は、あくまで一面的なものであり、全ては包括的に考える必要があることもまた、改めて確認しておきたいと思います。