トランプ政権1期目は利上げ局面から3回連続の利下げを実施

2017年1月にトランプ政権1期目がスタートした、FRBは利上げ局面にあり、それは2018年12月まで続いた。トランプ政権がスタートした時に0.75%だった政策金利、FFレートの誘導目標上限は2.5%まで引き上げられた。その利上げは一巡すると、2019年7月からFOMC(米連邦公開市場委員会)は3回連続の利下げに動いた(図表1参照)。

【図表1】FFレートと米2年債利回りの推移(2017年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

このような利上げから利下げへの政策転換は、当時の経済状況からは違和感のあるものだった。例えば、2019年前半の実質GDP伸び率は2~3%で推移し、FRBが利下げを開始した第3四半期はわずかに2%を割れたものの、それでも1.9%だった。

トランプ政権開始から上昇が続いた株価は、2018年に入ると頭打ちに

こうした中での利下げは、FRB議長解任の可能性まで公然と言及した上で利下げを要求するトランプ大統領からの圧力に屈した結果との印象があった。しかし、これについてパウエル議長は、米中貿易摩擦などの影響を懸念した上での「予防的(保険的)利下げ」と説明したのだった。

なぜ、トランプ大統領は当時のFRBに利下げを求めたのか。ひとつの鍵は株価だったかもしれない。2017年のトランプ政権開始から上昇が続いた株価は、2018年に入ると頭打ちとなり、2018年12月にかけてNYダウは最大で2割近くもの下落となった(図表2参照)。

当時の理解では、それこそまさにトランプ大統領の主導による米中貿易摩擦の影響が大きいと見られたが、トランプ大統領はFRBに対する利下げ要求を強め、FRBは利上げから利下げへ転換するところとなった。

【図表2】NYダウの推移(2017年~2020年)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

トランプ大統領の利下げ圧力の分かりやすい目安は株価

2019年の「予防的利下げ」局面を参考に、今後のFRBの利下げ見通しについて考えてみよう。トランプ大統領の利下げ圧力の分かりやすい目安はやはり株価ではないか。その株価は、NYダウの場合2024年12月から一時6%以上の下落となったが、最近にかけて再び最高値近くまで大きく戻している(図表3参照)。上述の「予防的利下げ」局面のように、株価が2割近く下げる中でトランプ大統領が利下げ圧力を本格化するなら、NYダウが3万7千米ドル割れに向かった場合ではないか。

【図表3】NYダウの推移(2023年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

そうなった場合、FRBは再び圧力に屈し利下げに動くだろうか。2019年に比べて利下げに動きにくい要因はインフレ率の高さだろう。米国個人消費支出(PCE)コアデフレータは、2019年当時は2%未満で推移していたが、足下はなお2%台後半で推移している。インフレ懸念の残るなか、「物価の番人」として安易に政治的圧力に屈することはできないだろう。

その一方で、足下の政策金利、FFレートはなお4.5%とかなり高い水準にある。その意味では、過度な引き締めの調整として利下げを行う余地はあるとも考えられる。「金融政策に介入する大統領」の再登場により、株価、景気、インフレ率などが改めて注目を集めることになりそうだ。