2024年8月30日(金)
日本 東京都市部消費者物価指数(2024年8月)
鉱工業生産指数(2024年7月)
小売売上高(2024年7月)
失業率、有効求人倍率(2024年7月)

【1】結果:東京CPIは市場予想を超える結果に

2024年8月の東京都市部消費者物価指数(以下、東京CPI)は、電気代・都市ガス代といったエネルギー関連が押し上げ、ヘッドラインの総合指数では前年比2.6%増、コアCPI(生鮮食品を除く総合指数)では2.4%、コアコアCPI(生鮮食品及びエネルギー除く総合指数)では1.6%と3指数そろって前回7月から上昇しています。

エネルギーは前年比ベースでは、17.4%上昇しているものの、前月比ベースで確認するとマイナス0.8%の結果となっており、8月集計分から再開された電気ガス激変緩和対策措置の影響がうかがえます。また供給制約から品薄状況が続くコメ類が26.3%、猛暑により売れ行きが好調であったエアコンが同19.7%増と耐久消費財も上昇しています。

【図表1】2024年8月30日公表の経済指標
出所:総務省、経済産業省、厚生労働省よりマネックス証券作成
【図表2】コアCPIの比較(前年比、%)
出所:総務省よりマネックス証券作成

2024年7月の鉱工業生産指数(速報値)からは生産回復がうかがえました。電気・情報通信機械工業が前月比7.5%増、半導体製造装置などの生産用機械が同7.0%と多くの業種で増加しており、全体としても2ヶ月ぶりのプラス推移となりました。

図表4の前月比推移(図中破線)や図表3の先行きを見ても9月はまた減少が予定されていることを鑑みると、生産の動向は一進一退の印象がうかがえ、本格的な拡大基調にはまだ時間を要するものと考えられます。経済産業省から同時に発表された基調判断は先月までの「一進一退ながら弱含み」から「一進一退」に引き上げられました。

【図表3】鉱工業生産指数の推移(2020年=100)
出所:経済産業省よりマネックス証券作成、点線は8月・9月見通し
【図表4】鉱工業生産指数の寄与度分解(前月比、%、%ポイント)
出所:経済産業省よりマネックス証券作成

2024年7月の商業動態統計速報、小売売上高は前年比2.6%、前月比0.2%とともにBloombergが集計する市場予想を下回る結果となりました。実際に前年比のトレンドをみても、平均するとゆるやかに縮小している傾向がうかがえます。中身をみると、自動車小売業は前年比6.3%、機械器具小売業が同4.6%と好調な一方で、織物衣服等が同マイナス2.7%、飲食料品がマイナス0.5%とまちまちな結果となっています。

【図表5】小売売上高の推移(2020年=100、前年比、前月比、%)
出所:経済産業省よりマネックス証券作成、*前月比は季節調整値

7月の季節調整済み有効求人倍率は、前月から微増し1.24倍の結果となりました。有効求人数が前月比0.3%減少したのに対し、有効求職数が同0.9%減少したことが要因となっています。

また、失業率は2.7%とこちらも前月から0.2%ポイント上昇しています。完全失業者が前月から11万人(6.3%)増加していることが要因ですが、その中身をみると非自発的な離職は1万人減少(マイナス2.2%)の一方で、自己都合・自発的な失業が7万人(9.5%)増加しており、転職活動等の増加によるものと考えられます。

【図表6】失業率と有効求人倍率の推移
出所:厚生労働省よりマネックス証券作成

【2】内容・注目点:サービスインフレは小幅に上昇、全体的に上昇品目は減少

サービスインフレは、前年比0.7%増と前回7月公表値の同0.5%から小幅に拡大しました。サービスは公共サービスと一般サービスに2分されますが、公共サービスが前年比マイナス2.0%、一般サービスは同1.3%増となり両社が相殺しあっている格好です。9月に発表される全国CPIの8月分でもサービスインフレの上昇が期待されます。

一方で、2024年7月の全国CPIのレポートでも言及した内容ですが、サービスの価格改定は頻繁に実施されるものではなく、上昇幅は小幅にとどまるでしょう。また、日銀が公表する基調的な物価の参考指標である上昇品目・下落品目の割合を確認すると直近の7月データは下落品目が更に増えてきていることが確認できます。現状は、広範囲の品目でインフレが起きているというよりも、エネルギーなど一部の変動性の大きい品目が、物価を押し上げている状況だと言えるでしょう。注目点は10月の下期開始時の価格転嫁動向です。

【図表7】サービスCPIの推移(前年比、%)
出所:総務省よりマネックス証券作成
【図表8】全国CPI 上昇・下落品目比率(%)
出所:日本銀行よりマネックス証券作成

【3】所感:補助金によるエネルギーの下押しとサービスインフレ

全体を総括すると、生産や小売は一進一退ながらも堅調に推移しておりファンダメンタルが弱まっているとは考えにくいです。物価については、コストプッシュインフレの再燃が意識される中、9月10月も電気代・ガス代は政府補助によって下押し圧力がかかり、インフレはその他の品目の動向がカギと考えます。政策効果による下押しがかかるタイミングでサービスインフレが押し上げられていくことがベストシナリオでしょう。

マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 山口 慧太