過去にもあった暗殺・暗殺未遂事件と株式市場との関連

先週末の7月13日(土)、トランプ前大統領がペンシルベニア州での演説中に襲撃され傷を負う事件が起きました。事件は未遂で終わり、奇跡的にトランプ前大統領は無事でした。銃の保有が合法化されている米国で、その自由が簡単に大統領候補の命すら奪ってしまうかもしれないリスクがあるという事をまざまざと見せつけられた事件となりました。しかしこのような事件は米国では初めてではありません。

1865年4月14日、16代大統領であるエイブラハム・リンカーン大統領は劇場で観劇中に銃で撃たれ戻らぬ人となりました。

株式市場取引が行われるようになってから起きた事件としては、1963年11月22日にテキサス州で演説中だったジョン・F・ケネディ大統領が暗殺された事案があります。この日は事件発生の報道後、株式市場は14時07分に取引停止となり、1日でS&P500は2.8%下落して商いを終えました。しかし、翌週明けに市場が再開されると、株価は上昇に転じました。

また、ロナルド・レーガン大統領の暗殺未遂事件が起きた1981年3月30日には、大統領が無事であったこともあり、株価は前日比ではそれほど下がらずに取引を終えています。

今回の事件については、6月27日に行われたテレビ討論会を機に、トランプ前大統領がバイデン大統領に対し優位な立場になってきていた折のことです。トランプ前大統領にもしものことが起きていたとすれば、現職の大統領ではないものの、マーケットに与える影響はこれまで以上に大きなものになっていたのではないかと思います。マーケットは、次の4年間、米国のリーダーはトランプ氏ではないか、という期待感がコンセンサスになり始めていた矢先、そのシナリオが狂ってしまうからです。マーケットは不確実性を嫌い、想定外の展開を嫌がるのです。

トランプ前大統領に有利な流れになるのか

断固としてあってはならない事件でしたが、今回の件はトランプ氏にとって有利な展開になるのではという報道もあります。耳を撃たれたトランプ前大統領が会場を後にする際、数回拳を上げたり、手を振ったりする仕草を見せると、聴衆は歓声を上げました。このシーンは世界中のメディアで何度も、何度も繰り返し放映されました。撃たれた耳から血を流し、シークレット・サービスに抱きかかえられながら、星条旗をバックに拳を上げるトランプ元大統領の写真はまるで自由主義の英雄であるかのように映っていました。

世界的にポピュリストのリーダーが、暗殺されると人気は上がる傾向があるようです。政治学者であるユーラシア・グループのイアン・ブレマー氏は、今回の事件でトランプ前大統領にとって「ホワイトハウスへの道が一歩近づいた」とコメントしています。

今回の事件直後、イーロン・マスク氏(テスラ社CEO)もトランプ候補への支持を表明しました。マスク氏は前回の選挙ではバイデン候補を支持していましたので180度の方向転換です。

S&P500もザラ場の史上最高値

マーケットでも今回のトランプ前大統領が無事だったことを受け、今週7月15日(月)NYダウ平均は史上最高値を更新し引けましたし、S&P500もザラ場中の史上最高値を更新しています。

株式市場の中では、トランプ前大統領が個人的に6割程度保有するソーシャルメディア企業のトランプ・メディア&テクノロジー・グループ[DJT]は週明けの同日、1日で31.4%も上昇しました。トランプファンの個人投資家による、トランプ前大統領に対する支持の表明なのでしょう。

また、暗号資産に好意的と言われているトランプ前大統領は同日、7月27日にテネシー州で行われる予定のビットコインコンファレンスに出席すると発表しました。このニュースを受けビットコインは7月15日(月)朝7時の段階で前日比およそ6%上昇しています。

トランプ前大統領は、今週7月15日(月)から始まった共和党大会で、オハイオ州のJDバンス議員を副大統領候補として発表しました。バンス議員は現在39歳で、選挙に勝つと米国で初のミレニアル世代の副大統領となります。

一方、民主党のバイデン大統領はというと、テレビ討論会以降、民主党内部でも高齢への不安から不出馬を望む声が高まっており、今後民主党の大統領候補が最終的に誰になるのか不透明感があります。

今回の事件でトランプ前大統領が、世界最大の経済大国の指導者として再選される可能性が高まった一方、先のイアン・ブレマー氏は今回の件について「これは、このような環境で起こりうる最悪の出来事であり、今後さらに政治的暴力や社会的不安定が起こることを深く憂慮している」とも語っています。投資家にとっても無視することはできないアメリカという国のリスクが、今ある現実のものとして浮上したことになります。