◆ひさしぶりにロンドンに行った。オリンピック開催やEU離脱の決定などを経て、さぞや変わっているだろうと思ったが、結論から言うとまったく変わっておらず、以前のままのロンドンの街だった。行くたびに変貌を遂げている香港やシンガポールとは大違いだ。もちろん、カナリーワーフの再開発など新しく加わった要素もあるが、それらはあくまでほんの一部であり、大部分は昔のままのロンドンだった。

◆歴史と伝統、と言えば聞こえがいいが、この古い街は変わりようがないのかもしれない。地下鉄の路線は拡大延長されたところもなく昔のままだ。車両が古いせいか、しょっちゅう止まる。街中には首都高のような機能がなく、道路も狭く入り組んでいるため、どこも大渋滞である。この街の交通インフラは、増え続ける人口流入に耐えきれていない。そう言えば、以前と比べて人種・民族が一段と多様化した気がした。アングロ・サクソン系の白人比率が下がっているのだろう。国際都市としての性格は強まっている。

◆変わった点を挙げると、タクシーがつかまえやすくなったこと。こちらも御多分にもれずウーバーの影響だ。なにしろ正規のタクシー運賃が高い。ウーバーに流れるのは道理であろう。ところがロンドン交通局はウーバーの営業免許を停止にした。いろいろ理由はあるが、ブラックキャブの既得権益はそうそうに譲れないということだろう。かつてはブラックキャブのライセンスを得れば一生安泰と言われた。日本の個人タクシーの比ではない。ブラックキャブのドライバーは憧れの職業だった。実際、今でもバイクに地図を貼り付けて街中を走るひとが大勢いる。ブラックキャブの資格試験のためにロンドン中の細かい道という道を覚える訓練をしているのである。

◆もうひとつ変わったのは紙幣である。ヒースロー・エクスプレスで着いたパディントンの駅からホテルまでブラックキャブで行き、現金で払おうとするとドライバーが受け取れないという。ポンド紙幣が新しくなり、僕の手持ちのポンド紙幣は使えなくなっていた。バンク・オブ・イングランドに行けば新札に換えてもらえると聞いて出向いた。こんなことで中央銀行に行く用ができるとは思わなかったが、普通の銀行の窓口(というか映画の切符売り場の窓口)みたいなところがあって、旧札を出すと新札に換えてくれるのだ。いずれ中央銀行がデジタル通貨を発行するようになれば、こうした手間もなくなるだろう。歴史のある古い街で未来のことをちょっとだけ考えた。