異常な「上がり過ぎ」の反動を警戒

メキシコで左派大統領の誕生などをきっかけに、今週に入りメキシコペソの急落が広がった(図表1参照)。メキシコペソ/円は、2020年の「コロナ・ショック」以降、4円台から最近にかけて9円を大きく上回るまで、4年余りで倍以上になるという記録的な上昇相場が続いてきたが、それが大きな転換点を迎えた可能性も出てきた(図表2参照)。

【図表1】メキシコペソ/円の日足チャート(2024年3月~)
出所:マネックストレーダーFX
【図表2】メキシコペソ/円の月足チャート(2020年~)
出所:マネックストレーダーFX

メキシコペソが、今回の選挙結果を受けて急落したのは、これまで好感されてきた財政の安定や良好な成長見通しが左派政権誕生で一変するリスクへの警戒と思われる。ただ上述のように、メキシコペソはここ数年記録的な上昇相場が続く中で、異常なほどの「上がり過ぎ」の可能性が高くなっていたため、その反動の影響が大きかったのではないか。

メキシコペソ/円は、記録的な上昇相場が展開する中で、空前の「上がり過ぎ」が懸念される状況も続いていた。例えば、過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)からのかい離率は、これまで2割以上に拡大したことは少なかったが、今回の上昇相場で一時は5割近くまで拡大した(図表3参照)。

【図表3】メキシコペソ/円の5年MAかい離率(2006年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券作成

これまでの経験からすると、5年MAを2割上回った水準でも「上がり過ぎ」だ。足下のメキシコペソ/円の5年MAは6.4円なので、それを2割上回った水準は7.7円程度という計算になる。その意味では、メキシコペソ/円は8円を割れてきても、かつての感覚からすると、まだまだ「上がり過ぎ」懸念の強い水準と言えそうだ。

また、メキシコペソ/円の90日MAは足下で8.67円。経験的には、これを1割下回ると、短期的な「下がり過ぎ」懸念が強くなる。8.76円を1割下回るなら7.8円という計算になる(図表4参照)。

【図表4】メキシコペソ/円の90日MAかい離率(2010年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券作成

メキシコペソ買い・円売りポジションは相当な規模になっていたか?

以上のように見ると、目先的には8円を割れてくると、短期的な「下がり過ぎ」懸念からメキシコペソの下落リスクが一巡するだろう。ただ、5年MAかい離率を参考にすると、それは中長期的な「上がり過ぎ」修正においては通過点に過ぎない可能性がある。

大幅な金利差メキシコペソ優位に加えて、大きく値上がりしたメキシコペソ/円は、投機筋にとっても人気の選好対象となってきたようだ。CFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋のメキシコペソ買い越し(米ドル売り越し)は、5月28日現在で12万枚。これは、足下における対米ドルでの買い越しとしては最大規模。一方、円の売り越し(米ドル買い越し)は15万枚で、これは主要な通貨の中では逆に対米ドルで最大の売り越しだ。以上の2つのデータを合わせると、メキシコペソ買い・円売りポジションは相当な規模になっていた可能性がある。

そんなメキシコペソ/円が、週明け2営業日で最大8%以上の暴落となった。この間の高値からの最大下落率は1割に達した。米ドル/円に換算すると、160円から一気に145円割れとなった計算だ。それでも、上昇トレンドに戻れるのだろうか。