先週の振り返り=7営業日連続の米ドル陽線

日米金利差からのかい離が目立った

先週の米ドル/円は155円台での取引スタートとなりましたが、目立った材料のない中でジリジリとほぼ一本調子で上昇し、日本の通貨当局による2度目の米ドル売り介入があったと見られている5月1日以来となる157円台まで上昇しました(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の日足チャート(2024年4月~)
出所:マネックストレーダーFX

今回の米ドル/円の上昇では、日米金利差からのかい離が目立ちました(図表2参照)。これは、円買い材料にはほとんど反応せず、先週の場合ならややタカ派と受け止められたFOMC(米連邦公開市場委員会)議事録や、予想より強い結果の米経済指標という米ドル買い・円売り材料にのみ過敏に反応したためでしょう。

【図表2】米ドル/円と日米10年債利回り差(2024年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

背景にあるのは、大幅な金利差円劣位は円売りに有利であり、逆に円買いには極めて厳しいということでしょう。この結果、投機筋中心に円売り取引が急増し、それが米ドル/円の変動を主導する構図となっており、多少の金利差変化の影響を受けず、円売り材料に過敏に反応します。一方で、円買い材料にはほとんど反応しない状況が続いたと考えられます。

ただし、そうした中で、米ドル/円は先週5月24日(金)にかけ米ドル陽線(米ドル高・円安)が7営業日連続となったので、今週はそろそろ米ドル陰線(米ドル安・円高)に転じ、米ドル高・円安の調整が入ってもおかしくないのではないでしょうか。

米ドル買い・円売りの「行き過ぎ」懸念が強まる

代表的な投機筋であるヘッジファンドの取引を反映しているCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションは、売り越し(米ドル買い越し)が先週5月21日(火)の時点で14.4万枚となっていました(図表3参照)。経験的に10万枚を超えると、米ドル買い・円売りの「行き過ぎ」懸念が強まるので、さらなる米ドル買い・円売りは限られ、むしろポジション調整が入りやすくなっている可能性があります。

【図表3】CFTC統計の投機筋の円ポジション(2022年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

米ドル/円は、5月中旬に156円台半ばから153円台半ばまで約3円反落したことがありました。すでに大きく米ドル買い・円売りに傾斜している可能性のあるポジションの調整が入れば、同じように3円程度の米ドル反落が起こる可能性はあるでしょう。

3度目の為替介入はあるか

5月1日のFOMC(米連邦公開市場委員会)の後に日本の通貨当局による2度目の米ドル売り介入が行われたとみられた時以来の157円台まで先週一時米ドル高・円安に戻したことで、さらに米ドル高・円安が広がるようなら、3度目の介入があるかも注目されそうです。

これについて、為替介入の実質的な責任者である神田財務官は、「必要なら適切に対応する」として3度目の介入もありうるとの示唆を繰り返しています。ただ、イエレン米財務長官が「介入はまれであるべき」との発言を続けていることから、客観的には介入がやりにくい感は否めません。では介入をやらなければ円安がさらに広がるかと言えば、必ずしもそうではないでしょう。

過去事例:2004年米ドル買い介入を止めたときはこう動いた

米国のけん制と見られる動きから日本が為替介入を止めた先例は2004年3月にありました。当時のグリーンスパンFRB(米連邦準備制度理事会)議長の発言の後、日本の通貨当局はそれまで1年3ヶ月継続してきた米ドル買い介入を止めました。ただそれでも米ドル安・円高はすぐに行き詰り、米ドル高・円安へ反転となったのでした(図表4参照)。

【図表4】米ドル/円の週足チャート(2003年1月~2004年7月)
出所:マネックストレーダーFX

これは、当時すでに米ドル売り・円買いが「行き過ぎ」となっていたことが大きかった可能性がありました。CFTC統計の投機筋の円買い越し(米ドル売り越し)は5万枚を超えると「行き過ぎ」懸念が強くなりますが、当時はまさにその状況だったのです(図表5参照)。

【図表5】CFTC統計の投機筋の円ポジション(2000年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

前述の通り、同統計の円売り越し(米ドル買い越し)は、普通なら10万枚を超えると「行き過ぎ」懸念が強まりますが、4月下旬にはほぼ18万枚と過去最高規模に拡大し、先週も14万枚以上の高水準となっていました。その意味では、かなり米ドル買い・円売りも「行き過ぎ」懸念が強くなっている可能性がありそうですから、介入の有無とは別に、米ドル買い・円売りの持続自体に自ずと限度があるのではないでしょうか。

今週の注目点=米経済指標は弱めの予想

今週発表予定の米経済指標の中では、5月30日(木)の1~3月期米GDP改定値と31日(金)のPCEコアデフレータが注目されそうです。今のところの予想では比較的弱めの数値となっており、予想通りなら「米金利上昇=米ドル高」の反応は限られそうですから、これも普通なら米ドル高・円安の調整を促す可能性が高いでしょう。

以上を踏まえると、今週はさらなる米ドル高・円安の動きは限られ、大きく米ドル買い・円売りに傾斜したポジションの調整次第で米ドル安・円高に戻す可能性もあるのではないでしょうか。今週の米ドル/円の予想レンジは155~158円で想定したいと思います。