4月の振り返り=下旬に160円まで円安加速
4月の米ドル/円は月末にかけて一段高となり、一気に1990年以来の160円を超える展開となりました。この間の高値、151.9円を更新した後も日本の通貨当局の円安阻止介入への警戒からジリジリ上昇する動きが続きましたが、155円を超えた辺りから介入への失望が円売りを加速した形となりました(図表1参照)。
ただ、このような米ドル高・円安は、日米金利差で説明できる範囲を超えた動きの可能性が高そうです(図表2参照)。特に、2023年までの金利差との関係で見ると、本来的には150円以上の米ドル高・円安は「行き過ぎた動き」となるでしょう(図表3参照)。そうした中でなぜ米ドル高・円安が拡大したのでしょうか。
2023年までとの顕著な変化の1つに投機筋の円売り急増があります。CFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円売り越し(米ドル買い越し)は、先週までにほぼ18万枚まで拡大し、2023年までの最高を大きく上回ってきました(図表3参照)。
この統計における過去最大の円売り越しは、2007年6月に記録した18.8万枚ですから、過去最大の円売り越しにほぼ肩を並べる動きとなってきたわけです(図表4参照)。2007年6月は、日米政策金利差円劣位が5%程度もの大幅に拡大していました。それを受けて圧倒的に有利な円売りが急増したと考えられます。最近の場合も、ほぼ同じ構図で投機円売りが急増し、それが金利差で説明できる範囲を超えた円安をもたらしている大きな要因ということではないでしょうか。
円安阻止介入が確認されない失望から円売りが加速
円安に対して、日本の通貨当局は強いけん制を繰り返してきました。特に4月17日には、日米韓の財務相会合を初めて開催し、円安とウォン安への「深刻な懸念」を確認する共同声明を発表しました。
こうした動きを受けて、遅くとも155円程度までには2022年10月以来の円安阻止のための米ドル売り介入が行われるとの見方が広がっていました。ただ先週、155円を超えて米ドル/円が上昇する中でも介入が確認されなかったことで、介入に対する失望の円売りが拡大、一段の米ドル高・円安をもたらしたということでしょう。
5月の注目点=米ドル高・円安の限界確認なら反動リスクも
米ドル高・円安はきっかけ次第で終わる可能性も
4月29日、160円前後から米ドル/円は急反落に向かいました。確認されていないものの、日本の通貨当局による米ドル売り介入があった可能性もありそうです。そもそも、すでに米ドル買い・円売りは記録的に拡大しており、それは「行き過ぎ」懸念が強くなっている可能性を示していることから、さらなる米ドル買い・円売りには自ずと限度があり、その反動も入りやすくなっているのではないでしょうか。
また、米ドル/円の5年MA(移動平均線)かい離率は足元で3割程度まで拡大しましたが、これは循環的な上昇限界圏に達している可能性を示しています(図表5参照)。その意味では、米ドル高・円安は円安阻止介入などの「きっかけ」があればいつ終わってもおかしくない、そうした状況が続いているということではないでしょうか。
米ドル/円の短期的な上昇は、90日MAからのかい離率が1割前後に達すると「行き過ぎ」懸念が強まる習性があります(図表6参照)。足元の90日MAは149.1円なので、160円を超えてくると、同かい離率は7%以上に拡大する計算になるため、短期的な「上がり過ぎ」懸念も強まってきた可能性があります。
5月の米ドル/円は150~162円のレンジで予想
以上のように見ると、米ドルの「買われ過ぎ」や、短中長期の「行き過ぎ」懸念から、5月は当面の米ドル高・円安の限界を確認するタイミングになり、介入など「行き過ぎ」の反動が入るようなら、ある程度米ドル安・円高に戻す可能性もあるでしょう。
ただ150円を大きく割れて米ドル安・円高に戻すためには、日米金利差米ドル優位・円劣位が本格的な縮小に向かう見通しが必要になるでしょう。そのためには、日銀の利上げでは影響が限られ、基本的にはFRB(米連邦準備制度理事会)の連続利下げが始まる見通しが必要になりそうです。
米連続利下げの見通しが浮上するのは、米景気の先行きに急減速の可能性が出てくることが前提になりますが、今のところその兆しはありません。足元の米景気、4~6月期の米実質GDP伸び率について、定評のあるアトランタ連銀の経済予測モデルのGDPナウは4月26日、3.9%といった高い予想値を発表しました。
以上を踏まえると、5月の米ドル/円は150~162円の予想レンジで、米ドル高・円安の限界を確認した後の反動がどれだけ入るかに注目したいと思います。