今回は「リスクオフの円買い」ではない!?
株安が広がる中で円高となった場合、よく引用されるのは「リスクオフの円買い」という解説だ。では今回も「トランプ・ショック」が広がる中で円買いを主導したのはそれだったかと言えば、懐疑的な感じがする。というのは、すでに為替市場はかなり円が「買われ過ぎ」の状況となっていたようなので、そこからさらに「リスクオフの円買い」と果たしてなるだろうか(図表1参照)。

リスクオフ局面で円が買われやすい理由は、低金利の円は売られているケースが多いため、リスクオフ局面ではそのポジションの手仕舞いで円買いが入りやすいのではないか。最近は低金利にもかかわらず、むしろ円は「買われ過ぎ」になっているとの見方が強い。そうであれば、さらに円の「買われ過ぎ」拡大に動くことがむしろリスクの高い行為だろう。
「トランプ・ショック」の中でなぜ日米金利差は拡大したのか
今回「トランプ・ショック」が広がる中で、日米金利差(米ドル優位・円劣位)は大きく拡大した(図表2参照)。日米金利差の変化には短期売買を行う投機筋が過敏に反応するが、そうした投機筋のポジションは大きく米ドル売り・円買いに傾斜しているとの見方が強く、その上で日米金利差が拡大すれば投機筋は米ドル買い・円売りに動いた可能性すらあるのではないか。

それにしても、「トランプ・ショック」の中でなぜ日米金利差は拡大したのか。それは相対的に高い米金利が上昇する一方で、相対的に低い日本の金利が大きく低下したためだ(図表3参照)。これと逆のことが2月中旬に起こり、その中で日米金利差は大きく縮小したのだが、「トランプ・ショック」をきっかけにその反動が入ったのではないか。

含み損となった米ドル買い・円売りポジションを抱えてしまったケース
では改めて、「トランプ・ショック」で米ドル売り・円買い取引の中心的な担い手は誰だったのか。それは、「トランプ・ショック」で米ドル/円が急落した際に米ドル買い・円売りポジションの手仕舞いが遅れた向きの「損切り」ではないだろうか。
日本時間の4月3日の明け方に、トランプ大統領が相互関税を発表すると、それまで150円台で推移していた米ドル/円は、その日のうちに145円割れ近くまで約5円の急落となった。こうした中で含み損となった米ドル買い・円売りポジションを抱えてしまったケースが相応にあったと考えられる。そもそもトレンドが急変するケースではそのようなことが起こりやすい。代表例として1998年10月のケースを紹介する。
急に円高へ転換する中で、米ドル買い・円売りポジションの手仕舞いに遅れた
当時は日本の大手金融機関が相次いで破綻するなど日本経済への悲観論が拡大する中で、日本の通貨当局の円安阻止介入にもかかわらず、米ドル高・円安は150円近くまで広がっていた。ところが、大手ヘッジファンドの破綻などをきっかけに株価が急落し、FRB(米連邦準備制度理事会)も利下げに転換したことから、米ドル/円は約2ヶ月で130円割れ近くまで急落した(図表4参照)。

多くの市場参加者が円安はまだまだ続くと思っていたところ、急に円高へ転換する中で、ある有力なヘッジファンドが米ドル買い・円売りポジションの手仕舞いに遅れた結果、巨額の含み損を抱えているとの見方が急浮上した。このため、このヘッジファンドの損切りを警戒し、米ドル/円は10月に入って間もなく、たった3日間で25円程度もの大暴落を演じることとなった。
ここ数年も、日本経済衰退化などを受けた円安予想が根強い状況が続いてきた。その円安トレンドが「トランプ・ショック」を受けた米経済の急悪化により急転換するなら、円売りポジションの転換が遅れた向きの円買いが円高を後押しする可能性にも注意が必要かもしれない。