投資において理論上こうだから価格はそのように動く、という事はあり得ません。理論も大切ながら現実的にはどうかという実証面も大切です。

資産運用の理論は変化してきました。もともと市場は効率的だという前提でしたが、やがて完全には効率的と言えないという見方に変わってきましたし、リターンの源泉がベータと呼ばれる株式市場全体の動きに比例する部分のみならず、割安度合い(バリュー)や時価総額(サイズ)など様々な要因が存在すると言われるように変わってきました。また投資家の行動にはバイアスがあるので非合理的だと言われたり、リターンはリスクを取る対価だなどとも言われるようにもなりました。

一方実証面では株式市場の期待リターンを最もよく予測するのは配当利回りだと言われたりします。配当利回りが上昇(低下)すればその後のリターンは上昇(下落)する傾向です。債券のクレジットスプレッド等でも考え方は同様で、利回りやバリュエーション指標は期待リターンの大小を示唆する一方、将来のキャッシュフローや価格変化を予測するものでは無いという理解です。普遍的には良好な経済状況ではバリュエーションは高く、それは今後の低期待リターンを意味し、悪い状況下では価格は低下し期待リターンは上昇するということになります。

前段長くなりましたが、株式市場では現実的にみられる(言われる)事象にアノマリーがあります。短期的に高パフォーマンスの銘柄の良さが続くモメンタムや小型株効果、バリュー効果といった実際に投資戦略として使われるスタイル面のみならず、季節性や大統領選挙サイクルなどカレンダーに沿った見方も有名です。

従来の理論においては、市場が効率的であれば株価は利用可能なすべての情報を反映しますし、超過収益機会があるのであれば皆がそこに寄ってくるのでそのようなチャンスはすぐに消滅するはずです。1月に上がりやすいならその前に皆買うでしょうし、セルインメイならその前に売り逃げるでしょう。しかし現実には持続的に様々なアノマリーが指摘され続けます。

コロナ禍以降の米国は財政支出によって堅調な経済を維持していますし、大統領選の今年も財政サポートが見込まれています。イベントをめぐるサイクルや、投資家の資金繰り・需給にある季節性・行動特性がこうした収益機会の存在を期待させているのかもしれません。注目に値すると共に、このような事象も理論同様に今後有効性が変化しうるという事は意識されます。

アノマリーは分かり易く、難解な投資理論よりも傾聴しやすいものであり、投資判断の一助となることでしょう。ただしアノマリーに触れる際には、現在にも符号的か、なぜ織り込まれていないのか、その非効率性が続きうるのか、考えて納得できることが大切です。特に今の良好な経済状況は金融引き締めの上で達成されているという歴史的にも例を見ない展開であり、それだけでも過去を参照することがリスクとなりますし、過去の平均的なリターンが当てはまる平均的な局面ではないことも念頭に置きたいです。