◆卒業式のシーズンである。僕らのころの卒業ソングの定番といえば3年B組金八先生の『贈る言葉』だった。いまどきの定番はレミオロメンの『3月9 日』だという。実際、この時期カーラジオから流れてくるのをよく耳にする。いい唄だと思うが、歌詞の内容は卒業とは関係ないように聞こえる。3月9日は卒 業式シーズンの只中ではあるが、特に卒業式がこの日に集中するということもない。どうしてこの曲が卒業式で歌われるようになったのか、謎である。

◆3月9日は米国株式市場にとっては確かに「卒業式」だった。リーマンショックが起きたのは2008年9月。100年に1度の危機と言われた衝撃だ けあって市場の動揺は半年も続いたが、ついに2009年3月9日を大底として反騰に転じた。その後は右肩上がりの上昇を辿り、リーマンショックの下げをす べて取戻してさらに上伸、史上最高値を更新している。その強気相場も今日から7年目に入る。

◆3月9日は米国株にとっての「卒業式」と上で述べたけれど、はたして本当にそうだろうか。卒業というのは業を修めて新たなステージに旅立つことで ある。そう考えると、2009年3月9日はリーマン後の最安値だから、「振り出しに戻る」、つまり留年して最初からやり直しを命じられたようなものだ。で はリーマン前の高値を抜いた日が卒業か?それでは前ステージからの進歩がほとんどないから、やはり卒業とは呼べない。

◆株式相場は何をもって卒業といえるのか。いったい何から卒業すればよいのだろう?尾崎豊は「この支配からの卒業」と歌ったが、株式市場は何を修 め、何から自由になれるのだろう。強すぎる株主の支配からか?低成長、低インフレの停滞からか?資本主義の行き詰まりからか?問いは尽きない。

◆尾崎は、あと何度自分自身を卒業すればいいのかと歌った。米国株は史上最高値更新、自己新記録の更新が続く。それは「自分自身の卒業」ではないの だろうか。それが卒業だとしたら、卒業した先に待っているものは何か。いつまで卒業し続ければよいのだろう。幾多の問いがあるけれど、はっきりした答えは 見えない。

◆ひとつ、確かなことは、米国株市場は日本株市場にとって一歩も二歩も前を行く「先生」であるということだ。日経平均は1万8000という「値」だ けはNYダウ平均を追い越した。ただ、それは背丈だけが大きくなったようなものである。米国市場は常に日本市場の先生であったし、これからもずっとそう だ。僕らの先生が学校を卒業した後もずっと「先生」であり続けるように。

◆僕がいちばん好きな卒業の歌は、荒井由実の『卒業写真』。これ もまた卒業<式>の歌ではない。卒業した後の話である。クラスメートだった気になる男の子を想う歌のように聞こえるが、実はユーミンが在籍した立教女学院 の先生がモデルとなっている。やはり、卒業とくれば金八先生ではないが、「先生」が主役の一翼なのだ。「彼氏」より「恩師」。仰げば「尊し」である。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆