エヌビディアを筆頭に急速に拡大するAI半導体の世界
2022年に米スタートアップのオープンAIが生成AI(人工知能)「ChatGPT」を発表して以降、生成AIが急速に普及している。
生成AIはジェネレーティブAIとも呼ばれ、様々なコンテンツを作り出すことができる。従来のAIが決められた行為の自動化が目的であるのに対し、生成AIはデータのパターンや関係を学習し、新しいコンテンツを生成することができる。それだけ、情報の処理能力が求められる。
半導体業界も先端半導体を軸に需要が高まってきている。特に生成AIに使われるGPU(画像処理半導体)でトップを走るエヌビディア[NVDA]の業績が2022年2~4月期決算以降、急拡大を続けている。
また、周辺の半導体製造装置や部材なども拡大してきている。注目ポイントは半導体製造の設計図を書き込むなど「前工程」での微細化進展と、チップに切り出す以降の「後工程」での新規需要増がポイントだ。膨大な計算を行うには半導体の微細化進展がカギとなる。
その理由は半導体の線幅を細くするほど性能が上がるためで、かつては10ナノ(ナノは10億分の1)メートルを切るのが困難だったが、オランダのASML社がEUV(極端紫外線)露光装置を開発したことで、現在では3ナノ製品が量産化に向かい、2025年には2ナノ製品が量産化に進む見込みらしい。
前工程での微細化が進展するということは、これまであまり重視されなかった後工程の変革も進むことになる。チップが高性能になり、歩留まりが悪化することを避けるためのチップレット(個片)化やHBM(高帯域メモリ)の登場がそれだ。1枚のチップに極小の塵がついても使えないこともあり、チップを複数に分けて、結果として1枚分の性能を出すのがチップレットである。
一方で、チップの性能を上げる(高帯域化)ためにチップを積層化するのがHBMだ。DRAM(メモリチップ)を10層などに積み上げることで、平面メモリよりも配線距離が短くなり、帯域幅が広がる。また、信号の伝わる時間が短くて済むことで、高い動作周波数を実現し省電力化も図ることができると言われており、中心にGPUを置き、周囲にHBMを囲むことで膨大な情報を処理することができる。
なお、積層したウエハを通電するためにはTSV(シリコン貫通電極)という技術が必要になる。TSV技術とは、シリコンウエハ内部に上下に貫通する細い穴(ビア)を開けてその内側に金属を埋め込んで電極を形成し、マイクロバンプ(極小の突起状の接続電極)を通してシリコンチップを接続する技術のことである。一般的には銅のワイヤーボンドでチップを電気的に接続し、パッケージ化している。
TSVを使用することでワイヤーボンドに比べチップ間の距離を短縮することができ、これにより高速で信号を伝送できる。また、複数のチップを積層することで1つのパッケージにすることができる。パッケージサイズの小型化や、ワイヤボンディングのように横に張り出すワイヤがないので面積を縮小でき、HBMにうってつけの手法と言える。
技術革新、需要拡大で今後も見逃せないAI半導体関連銘柄
ここで、主なAI半導体に関連する注目銘柄をピックアップする。
ディスコ(6146)
半導体の切断、研削、研磨装置で世界首位。TSVにはダイシング(切断)、グラインダー(削る)で高い技術が求められる。TSVは従来よりも工程数が増加し、工程そのものも複雑になるため、そのような高付加価値品を手がける同社への売上寄与が見込まれる。
SUMCO(3436)
シリコンウエハで信越化学工業(4063)と並ぶ世界大手。HBMでは薄いウエハを積層するため、シリコンウエハの使用量が増加する。決算説明資料によれば、AIサーバー1台で300ミリウエハを約1.8枚使用する。一般サーバーに比べると、AIサーバーは約3.4倍のシリコン面積になるという。同社ではAIサーバーが2027年まで年平均26%の伸びとなり、一般サーバーの5%成長を大きく上回るとしている。スマホのAI搭載が進めば、さらにウエハ需要が拡大すると模している。
アドバンテスト(6857)
半導体の検査装置で世界首位級。エヌビディアの創業時からの取引先として知られ、エヌビディア製のAI半導体は同社のテスターを使用しているとみられる。検査工程が重要で高付加価値製品の納入に期待。HBM向けの検査装置需要も拡大している。
TOWA(6315)
封止や切断加工など半導体後工程用製造装置の大手メーカー。チップレットやHBMの拡大は同社にとって追い風となっている。2025年3月期はAIメモリ用の高採算機種の出荷増加に期待感あり。