米株主擁護団体らが発表、世界の「クリーン」銘柄は

2023年2月中旬、米国の株主擁護団体のAs You Sowとサステナビリティに関する雑誌を発行するCorporate Knightsはクリーン・エネルギーの現在と未来をリードする世界の上場企業200社をまとめた報告書「Carbon Clean 200」を発表した。世界で上場している企業の3,000 社を調査し、持続可能な事業活動からどれだけの収益を上げているかを測定し、上位200社を抽出したという。

Carbon Clean 200にランクインした200社の内訳を業種別にみると、産業セクターが55社を占め、素材(30社)、一般消費財(29社)、IT(29社)と続く。 IT企業の持続可能な総収益は累計6430億ドル超と最も高く、1社当たりの平均持続可能な収益も222億ドルと最も高かった。

企業が本拠点を構える国別にランクインした企業数を比較すると、上位から米国(39社)、中国(23社)、日本(18社)、フランス(13社)、ブラジル、カナダ、ドイツ(各10社)となった。日本は3番目の多さを誇ったものの、アップル[AAPL]やテスラ[TSLA]、マイクロソフト[MSFT]、TSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング)[TSM]、HP [HPQ]などが名を連ねた上位10社に日本勢は入らなかった。

日本企業18社の内訳は日立製作所(6501)=28位、KDDI(9433)=35位、日産自動車(7201)=36位、リコー(7752)=49位、パナソニックホールディングス(6752)=57位、ソフトバンクグループ(9984)=58位、住友電気工業(5802)=62位、東日本旅客鉄道(9020)=73位、コニカミノルタ(4902)=92位、東海旅客鉄道(9022)=102位、ジーエス・ユアサコーポレーション(6674)=111位、シマノ(7309)=112位、ブリヂストン(5108)=118位、レンゴー(3941)=123位、積水化学工業(4204)=135位、エーザイ(4523)=145位、西日本旅客鉄道(9021)=153位、栗田工業(6370)=154位、となった。

化石セクター上回る株価パフォーマンス

AsYouSowらによると、Carbon Clean 200にランクインした200社は、指数測定期間となった2016年7月1日から2024年1月15日までに、世界が化石燃料銘柄に有利に働く地政学的な緊張状態に直面したのにもかかわらず、主要化石燃料指数を大幅に上回るリターンを生み出したという。実際、2016年7月1日に10,000ドルをClean200に投資した場合、2024年1月15日には20,346ドルに成長しているのに対し、化石燃料企業のベンチマークとして知られるMSCI ACWI/Energyは16,453ドルにとどまるという。

Carbon Clean 200の過去1年間のパフォーマンスに最も貢献した上位10社は、ドイツ(1社)、オランダ(1社)、米国(8社)であった。これらの企業には、持続可能な認証を受けた技術ハードウェア、高効率HVACシステム、水質・廃水処理装置などが含まれるという。

Corporate Knightsによると、「科学的根拠に基づく目標イニシアチブ(SBTi)」に署名している上場企業で、パリ協定に沿った気候変動対策の迅速化を望んでいる企業は直近の会計年度で28兆ドルを稼いでおり、化石燃料産業による4兆ドルの7倍の経済力を持っているとのことだ。

Corporate KnightsのCEOを務め、Carbon Clean 200の共著者であるトビー・ヒープス氏は「化石燃料関連銘柄の収益が絶好調の年であったにもかかわらず、Carbon Clean 200が化石燃料株と優良株のベンチマークの両方に対して6年以上アウトパフォームの実績を継続できたことは、示唆に富んでいる」と述べた。

強まる「反ESG」、進む企業の取組み

選挙イヤーを迎えている米国では、前大統領のドナルド・トランプ氏が3月5日に迎えた予備選集中日を14州で勝利を収めた。これで同氏が共和党の大統領候補に指名されることが確実となった。共和党候補への追い風が続くと、近年米国で盛り上がりを見せてきた「反ESG」の動きも強まるとの見方から、米国の主要企業の株主総会が集中する4月―5月を前に、責任投資推進派の憂慮は深まっている。

既に2024年に入ってから、米国の主要金融機関として知られるJPモルガンやステート・ストリート、ピムコが、世界的な投資家のイニシアチブとして知られる「CA+100」から相次いで離脱した。政争の具となった「ESG」が政治的攻撃に直面していることから、筆者には米国に拠点を置く金融機関や企業が保守的になり、責任投資に関する情報発信にも困難が伴うという声も届く。

一方で、技術革新の深化や科学調査の水準が上がっていることで、企業が現状存在する技術で、経済合理性のある形で脱炭素化を着実に進めている事例は多々あるという。企業と脱炭素に関する対話を重ねてきた金融業界のある専門家も「世界的な反ESGの強まりによる懸念と、実際に企業が見せている進捗の大きさは明確に区別して語るべき」と語る。実際、企業の脱炭素に関する調査については企業の個社レベルで経済合理性と脱炭素の両立を進め、競争力を高めるためのヒントになると同時に、投資家の投資判断のための重要な情報になる。