「マグニフィセント7」から「ファブ4」の時代が到来か?

エヌビディア[NVDA]の時価総額が米企業として3位に浮上

米半導体大手エヌビディア[NVDA]の時価総額が、アマゾン・ドットコム[AMZN]、メタ・プラットフォームズ[META]、アルファベット[GOOGL]を抜き、米企業として3位に浮上した。決算発表を目前に控え、強気の業績見通しが伝えられると同時に目標株価の引き上げが相次いでいる。

【図表1】米国株式市場の時価総額上位5社(2024年2月16日終値時点)
出所:筆者作成

2023年からの生成AIブームにより、エヌビディアが手がけるGPU(画像処理半導体)への需要が爆発的に伸び、エヌビディア1強といえる状況にある。大規模言語モデルの学習や動作にはデータセンターで大量のGPUを使うため、需給逼迫によって単価は上昇し、市販価格は500-600万円するケースもあるという。

【図表2】エヌビディアの分野別売上高の推移
出所:筆者作成

アマゾン・ドットコム[AMZN]、マイクロソフト[MSFT]、エヌビディア[NVDA]、メタ・プラットフォームズ[META]が「ファブ4」に

米国の株式市場はこれまで「マグニフィセント7」と呼ばれるハイテク企業7社の株価によってその上昇がけん引されてきた。しかし、直近の動きを見ると7社の株価に強弱が出てきている。グーグル、アップル[AAPL]、テスラ[TSLA]の株価が伸び悩む一方、アマゾン・ドットコム、マイクロソフト[MSFT]、エヌビディア、メタ・プラットフォームズは引き続き堅調さを維持している。

背景にあるのはAIによる収益への貢献、またAIに対する今後のシナリオだと指摘されており、上記4社をまとめて「ファブ(=Fabulous:素晴らしい)4」とも呼ばれている。AIへの取り組みという点では、筆者はテスラも同様に先行しており素晴らしい成果をあげつつあると考えているが、中国メーカーとの競争の激化やリコールの問題など、EV販売に伴う課題が株価の足を引っ張っていると思われる。

メタ・プラットフォームズ、「year of efficiency(効率化の年)」として大胆なコストカットを断行

2四半期連続で売上高が過去最高を更新、自社株買いと配当実施も話題

今回はファブ4の中から特に華麗な復活を遂げつつあるメタ・プラットフォームズを取り上げたい。2024年2月1日に発表した2023年10-12月期決算で、売上高は前年同期比25%増の401億1100万ドルと2四半期連続で過去最高を更新。純利益は3倍の140億1700万ドルとなり、四半期ベースで過去最高となった。

大幅な人員削減により人件費などの経費が減少し、今四半期の売上高営業利益率は前年同期より21ポイント高い41%に急上昇した。

【図表3】メタ・プラットフォームズの売上高と純利益の推移
出所:筆者作成

また、日本円にして7兆円を超える追加の自社株買いの計画も発表すると同時に、2012年5月に当時のフェイスブックが上場して以来初めてとなる配当の実施も明らかにした。支払日は3月26日で、2月22日時点の株主に対して1株あたり0.5ドルを支払うという。これまでは株主還元の柱として自社株買いを中心に据えていたが、配当を追加することで柔軟性を高めるとしている。

鳴物入りで巨額の投資をしている「メタバース」もあまり話題になっておらず、新たに展開している「Threads」も鳴かず飛ばずという中で、なぜメタ・プラットフォームズの株価が出戻り、ファブ4のひとつとして注目されているのか。上記の通り、自社株買いと配当実施というのが材料視されているのは間違いないだろうが、先々の成長を考えた場合、より積極的な攻めが求められる。

レイオフとオフィス閉鎖で効率化、そのリソースをAI人材獲得に配分

ウェブメディア「ビジネス+IT」に掲載された2月14日付けの記事「『オワコンだったはず』のメタ、利益200%増を叩き出した納得の理由」は、業績の回復に特に大きな影響を及ぼしたのが、マーク・ザッカーバーグCEOが2023年初めに宣言していた「year of efficiency(効率化の年)」で、これを実現するためにさまざまなコスト削減の取り組みが実施されたと指摘している。費用の削減は大きく、レイオフとオフィス閉鎖によって行われたという。

レイオフの実行により、2023年末時点における社員数は1年前に比べて2割以上減少した。これは約1万5000人がレイオフされた計算となる。このレイオフを遂行するために費やした費用は11億7,000万ドル。またロンドン中心部のオフィスを解約するなど、25億600万ドルのコストをかけたとしている。

その一方で、メタ・プラットフォームズを含むテック大手は特定領域、つまり「AI領域」の人材獲得を進めているという。テック大手企業は非戦略領域の人材を削減しつつ、そのリソースをAI人材獲得に配分。AI人材の獲得競争がさらに激化しており、これがテック業界のトレンドになりつつある。

メタ・プラットフォームズに関しては、AGI(汎用人工知能)の構築を目指し、2024年末までにエヌビディアの最新GPU「H100」を35万個以上獲得する計画を進めているほか、社内のAI研究開発部門である「FAIR」をプロダクト組織に組み込み、AI製品の開発を加速する構えだとしている。

「効率化の年」に関して、ザッカーバーグ氏は決算発表後に行われたアーニングス・コールの中で次のように語り、長期的な視点から必要であり合理的なことであったと語っている。

2023年はメタをより強力なテクノロジーカンパニーにすること、そしてAIとメタバースに関する野心的な長期的ビジョンを実現するための安定性を得るために事業を改善することに焦点を当てた「効率化の年」でした。

2023年は、効率化目標を達成しただけでなく、力強い収益成長を取り戻し、全体で力強いエンゲージメントを達成しました。よりスリムな企業であることが、より良く、より速く実行することにつながっていると思います。

私たちがやっていることは、短期的なことであるかのように多くの人が見ていたと思う。しかし、会社をよりスリムにするという部分は、今後より重要になってくると思います。

現時点では、よりスリムな会社として運営したほうがいいと考えるようになったことです。長期的に見れば、そのための規律が必要なのです。物事をより合理的なレベルまで抑制するための規律は、実際に会社全体の業績を向上させます。だから、私はそのことに重点を置いたのです。

汎用AI開発に向けて持てる資源を全力投入するメタ・プラットフォームズ

ブロードコムのCEOらを取締役に起用

日本経済新聞の2月15日付けの記事「メタ、ブロードコムCEOらを取締役に 汎用AI開発を加速」によると、メタ・プラットフォームズは14日、米半導体大手、ブロードコムのホック・タン最高経営責任者(CEO)らを取締役に起用したと発表した。メタ・プラットフォームズのザッカーバーグCEOは高度なAGI(汎用人工知能)の開発を目指す方針を示しており、半導体業界などで培った知見を活用するという。

AGIとは、Artificial General Intelligenc(人工汎用知能)の略で、さまざまなタスクに対して人間と同様の知識や能力を持ち、独自の学習や問題解決ができる汎用的な知能を持つ人工知能のことを指している。このAGIを含めた今後の展開について、ザッカーバーグ氏はアーニングスコールの中で次のように語っている。

今、私たちは、最も人気があり、最も先進的なAI製品とサービスを構築することを大きな目標としています。そして私たちが成功すれば、私たちのサービスを利用するすべての人が、物事を成し遂げるのに役立つワールドクラスのAIアシスタントを手に入れ、すべてのクリエイターが、彼らのコミュニティと関わることができるAIを手に入れ、すべてのビジネスが、顧客が商品を購入したりサポートを受けたりするために対話できるAIを手に入れ、すべての開発者が、最先端のオープンソースモデルを使って構築できるようになります。

そして、2023年はっきりしたことは、この次世代のサービスには完全な一般知能の構築が必要だということです。今、私たちが思い描くサービスの最良のバージョンを提供するためには、推論、計画、コーディング、記憶、その他多くの認知能力を備えたモデルが必要になることは明らかです。

私たちは10年以上、一般知能の研究に取り組んできました。これからは一般知能が私たちの製品開発のテーマにもなるでしょう。メタには、私たちのサービスに新しいテクノロジーを組み込んできた長い歴史があり、リーダーになるための明確な長期的なプレイブックがあります。

そのための重要なポイントがあります。

1つ目は、ワールドクラスのコンピュータインフラです。先日、2024年末までに約35万台のH100を導入し、その他のGPUを含めると約60万台のH100相当のコンピュータを導入することになるとお話ししました。我々は今、十分な態勢を整えています。我々は当初、リール向けにGPUクラスターを過小に構築していました。しかし、今後登場すると予想されるサービスをサポートするのに十分なキャパシティを構築すべきだと考えました。

当時、この決断には賛否両論があり、設備投資について多くの質問を受けましたが、私はこの決断を下して本当に良かったと思います。今後、将来のモデルのトレーニングや運用は、さらに計算機集約型になると考えています。これが具体的にどの程度になるか、まだ明確な見通しは立っていませんが、これまでの傾向として、最先端の大規模言語モデルは、毎年およそ10倍の計算量でトレーニングされてきました。

プレイブックの重要な点の2つ目は、オープンソースのソフトウェア・インフラです。私たちの長年の戦略は、オープンソースの一般的なインフラを構築する一方で、特定の製品の実装は独占的に保つことでした。オープンソースへのこのアプローチは、業界全体で多くのイノベーションを引き出しており、私たちが深く信じていることでもあります。

日本企業とは桁違いの設備投資で攻めを加速

メタ・プラットフォームズは2024年の設備投資額の見通しを300億-370億ドルと、レンジ上限を引き上げた。この額は過去最高だ。なお、日本では経済産業省の支援を受けて、さくらインターネット(3778)やソフトバンク(9434)がエヌビディアのGPUをそれぞれ2000基以上搭載するAIインフラを構築するとしている。これらは国内最大級だ。

メタ・プラットフォームズは、ザッカーバーグ氏のコメントにもあるように35万基を追加で取得、合計で60万基と桁が飛んでいる。効率化の年を経て、2024年はメタ・プラットフォームズにとってどのような年になるのか。いずれにせよ、AIをめぐる動きは引き続き加速しそうだ。

石原順の注目5銘柄

メタ・プラットフォームズ[META]
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エヌビディア [NVDA]
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マイクロソフト[MSFT]
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アマゾン・ドットコム[AMZN]
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アルファベット[GOOGL]
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