ロボット技術でも世界の先頭ランナーを狙う
産業用ロボットでは日本の技術が世界トップクラスで、有力メーカーがひしめき合っています。また、モノづくりに強みを持つだけに産業ロボットの導入にも積極的で、国際ロボット連盟(IFR)の統計によると、日本は2022年のロボット導入実績で世界2位となっています。
ロボット導入数の52%を占め、圧倒的な首位を誇る中国には水をあけられていますが、日本は全体の9%を占めています。そして世界3位が7%を占める米国です。スマートフォンや半導体などの開発を自国で手掛け、製造は外部に委託するケースも多いのですが、それでも産業ロボットの導入で世界上位にランクされています。
一方で、人型ロボットでもホンダ(本田技研工業)(7267)が「アシモ(ASIMO)」を開発し、日本の技術力の高さを示しました。ただ、米マサチューセッツ工科大学の教授などが立ち上げたボストン・ダイナミクスは人型ロボットの「アトラス(Atlas)」で驚異的な技術力を示し、大きなインパクトを世界中に与えました。一部ではアトラスの進化を受け、アシモが表舞台から静かに姿を消したとも言われています。
ボストン・ダイナミクスはアルファベット[GOOGL]に買収されましたが、2017年にソフトバンクグループ(9984)がアルファベットから買い取り、傘下に収めました。その後、2021年にはボストン・ダイナミクスの株式80%を韓国の現代自動車に売却し、ソフトバンクグループの持ち株比率は20%に低下しています。
革新的な技術開発を見る限り、米国はロボット技術の分野でも世界の先頭ランナーと言えるのかもしれません。そこで、今回はロボット関連の銘柄を紹介します。
革新的な技術力で成長する注目のロボット関連銘柄5選
インテューイティブ・サージカル[ISRG]、手術支援ロボットのガリバー
インテューイティブ・サージカルは手術支援ロボットの世界市場で圧倒的なシェアを持つガリバー的な存在です。30年近い実績に裏打ちされた信頼と継続的なアップデートが支持されています。
手術支援ロボットシステムの主力ブランドは「ダビンチ」です。解剖学の研究を進歩させたと言われるレオナルド・ダビンチから拝借しており、現状でシステムは第4世代にまでアップデートされています。
ダビンチ・サージカルシステムは内視鏡手術用のロボット支援システムです。ペイシェントカート、サージョンコンソール、ビジョンカートが主要な装置で、使い勝手をさらに高める機器を組み合わせることも可能です。
ペイシェントカートは、実際の執刀を行う装置で、内視鏡カメラを取り付けるロボットアーム1本と鉗子を取り付けるアーム3本で構成されています。執刀医がサージョンコンソールを通じて行う操作に対応し、患部に挿入された鉗子が動いて手術を行います。
サージョンコンソールは、内視鏡カメラや鉗子の付いたペイシェントカートのアームを操作する機能を持つコントローラーです。執刀医は、内視鏡カメラが映す患部の画像を見ながら手元のコントローラーでアームを動かします。実際に鉗子を動かす感覚で操作できるように工夫されているそうです。
ビジョンカートは画質処理装置です。内視鏡カメラから送られてくる画像を処理し、サージョンコンソールに送る機能を持ちます。こうした画像はビジョンカートのモニターに映し出され、執刀医だけでなく、手術スタッフに共有されます。
このほかダビンチ・サージカルシステムにはファイヤーフライ蛍光イメージングやテーブルモーションがあります。ファイヤーフライは新しい世代のシステムには標準装備されています。蛍光色素を用いた血流の評価が可能で、より安全な血管の吻合が可能になります。
また、テーブルモーションでは、病院用ベッドや患者のモニタリング機器を開発するヒルロムと提携し、手術台システムを提供しています。ダビンチ・サージカルシステムに組み込み、手術中の患者の体位を調整することができます。
インテューイティブ・サージカルが手術支援ロボットの提供を通じて掲げているのは、低侵襲性です。侵襲治療は手術による切除や皮膚・身体の開口部に器具を挿入するといった身体に負担を与える治療法のことで、避けられないケースも多いのですが、なるべく侵襲の度合いを低くすることを目指しています。実際、ダビンチ・サージカルシステムでは、切開部を小さくして手術を行うことが可能で、低侵襲性を実現しています。
ダビンチ・サージカルシステムの2023年9月末時点の導入数は世界全体で8,285台に上ります。手術支援ロボットは高価で、病院側は新しい機器を導入する際にリスクの小さな既存シリーズの新バージョンを購入する傾向にあるようです。もちろん執刀医の使い勝手を考慮すれば、操作方法を熟知した機器の後継機を導入するのが理にかなっています。
インテューイティブ・サージカルの先行者利益は大きく、医薬品大手のジョンソン・エンド・ジョンソン[JNJ]が手術支援ロボットの開発を進め、医療機器のメドトロニック[MDT]が手術支援ロボットを導入するなどライバル企業も奮闘しているようですが、インテューイティブ・サージカルの牙城を短期間に崩すのは難しいと見られています。
コグネックス[CGNX]、マシンビジョン分野で着実に成長
コグネックスはマシンビジョンのハードウエアとソフトウエアのプロバイダーです。ハードウエアとソフトウエアを組み合わせたマシンビジョンシステムでは画像情報を収集・分析し、あらかじめ設定されていたタスクに基づき、機械類を動かします。
マシンビジョンは製造や物流の現場でのオートメーション化に不可欠なシステムです。高速かつ高精度という人間の目視では不可能な領域でも「機械の眼」が検知を可能にします。導入した企業は、人件費の削減や歩留まりの向上、品質の改善といったメリットを享受できるというわけです。
具体的にはビジョンセンサーや画像処理ソフトウエアなどを組み合わせて、システムを構築します。2次元はもちろん、立体的な形状をとらえる3次元のマシンビジョンツールも取り揃えています。また、物流業界では荷物の仕分けやピッキングにバーコードリーダーが不可欠で、コグネックスはこの分野でも強みを持っています。
コグネックスにとって自動車産業が最大の市場です。パーツの測定、組み立てロボットへの指示、レザーシートの縫製の検査などマシンビジョンシステムの活躍の場が広がっています。自動車業界では日産自動車やフォード・モーター[F]、独BMWなどへの納入実績があります。
コンシューマーエレクトロニクスもコグネックスのマシンビジョンが活用できる産業です。この領域でも世界的な大手が顧客で、ソニーグループ(6758)や韓国のサムスン電子、フランスのシュナイダー・エレクトリックなどへの納入実績があります。
また、物流は過去5年にわたりコグネックスの成長を牽引役してきた産業です。特にネット通販の隆盛がバーコードリーダーシステムの需要を押し上げました。現状では米国を中心に事業を展開していますが、将来的には欧州とアジアで事業の拡大を図る方針です。
ユーアイパス[PATH]、RPAソフトウエア開発の世界最大手
ユーアイパスは、ロボティクス・プロセス・オートメーション(RPA)と呼ばれる分野のソフトウエアで世界最大のシェアを握っています。RPAは、パソコンで行う業務をロボットで自動化する技術のことです。ロボットと言っても人型の機械が出てくるわけでもロボットアームが動くわけでもありません。ユーアイパスは作業を自動化するソフトウエアを開発し、企業などに提供しているのです。
RPAではデータの入力やウェブサイトからの情報収集といった業務上の判断を伴わない定型作業をロボットに任せます。人工知能(AI)が関与しているとの連想で、ユーアイパスへの注目度が高まることもあるようですが、判断を伴わない作業なので、初期段階のRPAではAIも不要です。
オフィスでの作業の自動化を巡り、これまでは大規模なシステムの変更などが必要でしたが、RPAでは自動化の設定が簡易で、導入のハードルが低くなったようです。働き方改革や新型コロナウイルスの感染拡大を背景としたテレワークなどを契機に日本でもデジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が声高に語られるようになってずいぶん経ちました。RPAはDXの実現に向けた手段の1つと言えます。
導入費用はかかるものの、人件費を抑えられるというメリットがありますし、自動化したほうが圧倒的に早く、効率的です。しかも、RPAは作業するのがロボットだけに当然ながらヒューマンエラーはなく、ミス自体も人間の作業に比べれば少ないようです。
ユーアイパスにとって、日本は極めて重要な市場です。2023年1月期決算の年次報告書では、32ヶ国にプレゼンスを持つ中で主要な営業地域として本社のある米国、創業者の出身国であるルーマニア、そして日本を挙げ、特別視しています。
テラダイン[TER]、買収でロボット事業に参入
テラダインは半導体の自動検査装置(ATE)の世界的大手です。SoC(システム・オン・チップ)デバイスの検査装置や関連のソフトウエアを中心に、DRAMやフラッシュメモリーなどの検査装置も開発しています。
ストレージ製品や防衛・航空関連製品、回路基板を対象とする検査装置とシステムに加え、ワイヤレス製品の検査システムの開発も手掛けています。2022年12月期決算の売上高に占める一連の検査装置・システム事業の割合は合わせて約87%に達しています。
1960年に創業し、60年を超える歴史を持つテラダインにとってロボット部門は比較的新しい分野です。2015年に産業用のロボットアームの開発・製造を手掛けるユニバーサル・ロボットを買収し、この分野に参入しました。ユニバーサル・ロボットのロボットアームは主に製造の現場で使われています。
テラダインは2018年にAMR(自律走行搬送ロボット)を開発するモバイル・インダストリアル・ロボッツ(MiR)、2019年に同業のオートガイド・モバイル・ロボッツを立て続けに買収。2022年に両社を統合しています。AMRは工場や物流センターで資材などを運搬する役割を果たし、顧客企業の効率化に貢献しているようです。
2022年12月期の売上高に占めるロボット部門の比率は13%にすぎませんが、着実に伸びています。2021年12月期の売上高は前年比34.4%増の3億7600万ドル、2022年12月期の売上高は7.2%増の4億300万ドルです。税引き前損益で損失が続くなど黒字転換を果たせていませんが、検査装置とは異なる領域の事業として存在感を高めているようです。
ロックウェル・オートメーション[ROK]、工場自動化を支援
ロックウェル・オートメーションは産業分野のオートメーション化に必要な機械・装置やソフトウエアを提供する企業です。前身の企業の創業は1903年で、120年を超える歴史を持ちます。
主に製造業のオートメーション化を支援しています。事業部門はインテリジェント・デバイス、ソフトウエア&コントロール、ライフサイクル・サービスという3つに分かれており、それぞれ異なるアプローチで顧客への支援を提供しています。
インテリジェント・デバイス部門は、製造工程の基盤となる装置やシステムの開発、生産に重点を置いています。工作機械や産業機器などの装置を動かすために必要なモーションコントロール関連製品をはじめ、電源制御装置、安全装置、モータ制御・回路保護装置などの開発を手掛けています。2023年9月期の売上比率は45%です。
ソフトウエア&コントロール部門は製造工程のオートメーション化に必要なハードウエアとソフトウエアを開発しています。顧客企業が求めるモーションコントロールやロボット制御、作業工程の安全確保などに対処できるシステムを提供します。生産のプランニングから実行、管理、最適化を推進できる点が強みです。2023年9月期の売上比率は32%です。
ライフサイクル・サービス部門は、サイバーセキュリティーやデジタルトランスフォーメーション(DX)関連のコンサルティング、工場ネットワーク構築やクラウド導入などの接続サービス、従業員研修サービスなどで構成されています。2023年9月期の売上比率は23%です。
ロックウェル・オートメーションは2023年10月、AMR(自律走行搬送ロボット)を開発するカナダのクリアーパス・ロボティクスを買収し、AMR事業に参入しました。AMRを工場内のオートメーション化に活用するといった相乗効果が期待できそうです。