元旦に発生した能登半島地震にて被災された方々に衷心よりお見舞いを申し上げます。一刻も早い復旧を願っております。

そして改めて、新年明けましておめでとうございます。このコラムもなんと12年目を迎えることになりました。長く続けることができたのも、読者のみなさんの応援があってのことと思います。引き続き、2024年もよろしくお願いいたします。

その2024年ですが、地震や空港事故などを嫌気して大発会の寄り付きこそ大幅安となりましたが、その後は堅調な推移となっています。新NISA開始や金利上昇懸念の沈静化などが株価を下支える展開ということなのでしょう。当面は押し目をしっかりと拾っていく投資戦略が重要なのではないか、と感じています。

進む東証改革、親子上場の存在感も浮き彫りに

さて、新年最初となる今回のコラムは、「親子上場」を採り上げたいと思います。前回のコラムでも言及した通り、「東証改革の加速」が2024年の重要なテーマになるとすれば、この改革の波は親子上場にも及ぶのではないかと考えるからです。

親子上場の存在は、東証(というより、日本の証券取引所)で主に見られる世界的にも稀な現象と言っても過言ではありません。そして、それは従前より特に海外投資家からの不興対象となっていました。

2022年の市場区分変更、2023年の低PBR改善要請に続く改革の目玉として、東証が親子上場を位置付けているとしても最早おかしくないでしょう。実際、2023年末には親子上場の意義を東証が開示要請するといった報道も出てきました。市場関係者ほど、東証からはその取引所としての魅力を高め、世界中から資金を集めるために改革を続けるという強い姿勢を感じているのではないでしょうか。

親子上場の問題点、その背景にある要因とは

親子上場の抱える問題は、大株主と少数株主で利益相反が生じかねないことにあります。基本的に親会社は子会社の経営権を有していることから、自社の業績拡大に向けて子会社から資金や人材、技術を引き抜いて、(子会社の業績を犠牲にして)親会社のために活用することは理論上何ら問題がありません。株式市場においては連結決算で捉える以上、グループ内での経営資源の移動は本質的な価値に影響を与えないためです。むしろ、子会社の経営資源を親会社で活用した方が果実は大きいとなれば、その方が望ましいとも考えられるでしょう。

しかし、子会社が上場している場合(つまり、株主が親会社と異なる場合)は様相が異なります。子会社の株主からすれば、株式を保有していない親会社の犠牲になって経営資源を吸い取られるというのはたまったものではありません。企業の経営陣は基本的に株主の期待に応える義務を負うのですが、子会社の経営陣が大株主である親会社の期待に応えようとすると、少数株主にはデメリットを招くこともあり得るのです。

逆もまた真で、子会社の少数株主への配慮が過ぎると大株主が不利益を被るケースも考えられます。これが利益相反です。これは子会社でなく関連企業であっても同じです。グローバル視点で親子上場が稀なのは、そして親子上場が海外投資家から不興なのは、このような利益相反が忌避されるためなのです。

それにも関わらず、日本で親子上場が一般的であったのは、親子双方の経営陣にメリットがあったからです。子会社株式の限定的な売却であれば、親会社は経営権を維持したまま、株式売却益という形で資金調達ができます。子会社も頼れる親会社を維持しつつ、上場企業という社会的信用を得ることができるというわけです。

また、親子上場が頻発した時は右肩上がりの経済であったという背景も見逃せません。経済成長の追い風が結果的に全株主を満足させることとなり、少々の利益相反は深刻な問題にならなかったのです。加えて、株主代表訴訟リスクやアクティビストなどの影響が希薄であり、企業側に利益相反をそこまで深刻に捉える必要がなかったという時代背景もあります。現在の親子上場の問題はこうした「昭和時代の思考の残渣」とも言え、それをグローバル思考にアップデートしていく必要を東証は捉えているのだと思われます。

親子上場問題を解決するポイント

親子上場問題の解消は、親会社が株式売却を進めて親子関係を解消するか、子会社株式を買い取って少数株主の存在しない完全子会社にするか、の選択となります。

例えば、親子上場問題で先行した日立製作所(6501)は、自社の戦略に沿って上場子会社群を関係解消と完全子会社化に明確に分けて対応しました。かつて日立御三家ともされた伝統ある上場子会社(電線、金属、化成)とは親子関係を解消する一方、情報関連事業の子会社群は完全子会社化を推進したのです。

上場グループ企業を多く抱えるトヨタ自動車(7203)も、デンソー(6902)の株式を一部売却するなど株式の相互持合を緩和させる動きを見せてきました。実はこのような流れは既にあり、2006年には400社超あった親子上場企業数は現在およそ200社まで減少しました。東証改革がこの領域にメスを入れれば、この数はもっと減るのではないかと予想します。

ちなみに、日本取引所グループはこの親子上場問題に関する2019年の資料において、上場子会社の多い企業例として、ソフトバンクグループ(9984)、日産自動車(7201)、伊藤忠商事(8001)、イオン(8267)、GMOインターネットグループ(9449)、三菱商事(8058)、RIZAPグループ(2928)などを挙げています。

親子問題の解消や緩和には親会社の明確な経営戦略と強烈な推進力が不可欠です。親子上場問題をどのように対応するのかが、このような企業の変化の兆しを占う一手になるのかもしれません。