・円は主要通貨で3年連続のビリ争い
・海外との金利差は埋まらず
・米ドル相場にも下支え要因

2023年最強の主要通貨はスイスフラン

2023年も2022年同様、一年の終わりになって円が辛うじて最弱通貨となるのを脱しそうな雰囲気となっている。円は2022年も12月上旬まで主要国通貨の中で最弱通貨だったが、日銀のイールドカーブコントロール政策の修正で上昇し、年間最下位の座をスウェーデンクローナに譲った。2023年も11月まで円は年間最下位確実かと思われたが、ここに来てマイナス金利政策解除の思惑から円高となり、本コラムを執筆している12月10日時点では、年初来で最弱通貨はノルウェークローネとなっている。いずれにせよ、円は3年連続で主要国通貨の中で最弱か2番目に弱いという状況が続いている。

主要国通貨の中で2023年の最強通貨となっているのはスイスフランだ。スイスフランは2022年も米ドルに次いで二番目に強い通貨だった。同2月以降のロシアによるウクライナ侵攻、2023年10月以降のパレスチナ情勢に鑑みると、こうした地政学的リスクが影響している可能性は高い。

主要国通貨より強いメキシコペソとブラジルレアル

新興国通貨で特徴的なのは、メキシコペソとブラジルレアルの強さだ。メキシコペソとブラジルレアルは、2022年も2023年も、主要通貨で最強だった米ドル、スイスフランよりも更に強い通貨となっている。通常、2022年のようにFRB(米連邦準備制度理事会)の利上げ期待が高まり、米ドルが強くなると新興国通貨は弱くなる傾向があった。しかし、現在は、FRBの金融政策に対する見方のいかんを問わずメキシコペソもブラジルレアルは強い。メキシコもブラジルも経済の強さを背景に、実質金利の高さが際立っており、それが強さの背景となっている可能性は高い。

弱い通貨についても、主要国通貨、新興国通貨共に、2022年と2023年の状況は似ている。主な新興国通貨の中では3年連続でトルコリラが最弱となりそうだ。そして、前述の通り、主要国通貨では円が3年連続で最弱か2番目に弱い。3年間を通じてみれば、円は2番目に弱いスウェーデンクローナに対しても10%も下落しており、主要・新興国双方の通貨を含めてみても、トルコリラの次に弱い南アランドに対して8%程度下落している。

「米欧利下げ×日銀利上げ」はありうるのか

2024年はFRBやECB(欧州中央銀行)が利下げに転じるとの予想が一般的な一方、日銀がマイナス金利政策を脱出すると予想されていることから、2024年の円は強くなるとの予想が多いようだ。ただ、仮にそうした金融政策の組み合わせが実現したとしても、2024年の円は弱い通貨であり続ける可能性が高いと予想している。

そもそも、日銀がマイナス金利を脱したところで、その他主要国との短期金利差は大きい。現在、日本と世界の政策金利加重平均値の差は500bp(ベーシスポイント、1bpは0.01%)を超えている。この水準は円キャリートレードが活発化していた時のピークの金利差よりも100bpほど大きい。その他主要国が多少利下げを行ったところで、短期金利差は歴史的に大きいままだ。

また、筆者はFRBが利下げを行うことが確実視されるような状況となったら日銀は金融政策正常化に向けては動けないと考える。つまり、FRBやその他主要中銀が利下げ、日銀が利上げという組み合わせが発生する可能性は低いと考えている。

挙げたらキリがない「円の弱み」

円のファンダメンタルズ(基礎的な条件、要因)の弱さは根が深く、短期金利差は円安要因の一部でしかない。大幅なマイナスとなっている日本の実質金利も影響が大きく、むしろ、2024年に一層強くなる可能性が高い。2024年は新少額投資非課税制度(NISA)が始まることもあって、日本国民の投資熱は高まるだろう。依然として1100兆円もの円建て現金・預金を抱える日本の家計が、実質的には価値が目減りしていく円建て現金・預金を嫌気して外貨建て資産投資を膨らませる可能性は低くはないだろう。

更に、日本人が米国のIT系・メディア系企業からサービスを購入する流れは止まらないであろう。過去の経験が全くない新しい事象なだけに、どこまでサービス収支の赤字が拡大するか見当をつけるのが難しい。

2024年の日本の市場で本当に気を付けなければいけないリスクは日本国債の格下げだろう。もし、顕現化した場合、日本の金融機関による米ドル調達に支障が及ぶリスクがある。その場合は1990年代後半のようなジャパンプレミアムが発生し、円が大きく売られることになると予想される。

円は構造的に弱くなってしまっており「そろそろ強くなるだろう」といった循環的な動きに期待することが難しくなっている。また、円は既に売られ過ぎの水準となっており、むしろ、ここまで弱くなっても反転の兆しが無い理由に着目すべきだろう。BIS(国際決済銀行)と日銀が算出する円の実質実効レートは、統計が遡れる1970年以降で、既に最低レベルとなっており、依然史上最安値を更新し続けている。

保護主義も米への資金流入促進か

米ドルについて言えば、市場は2024年にFRBが100bp程度の利下げを行うことを、既に織り込んでいる。つまり、FRBが本当に2024年に100bp程度利下げしても、米ドルにとってネガティブな影響はあまり出てこない。逆に2024年に100bpも利下げを行わないだろうとの見方が強まったら、米ドルを押し上げることになるだろう。

米ドルは本来2023年に弱くなってもおかしくない状況だった。通常、FRBの利上げがピークに近づき、先行きの利下げを織り込む頃は既に米ドルの下落は進んでいる。しかし、2023年の米ドルはさほど弱くならず、夏以降10月にかけてはむしろ強い通貨となった。こうした米ドルの底堅さの背景に、アメリカの保護主義が影響しているのではないかと考えている。インフレ抑制法などを背景に米国への資本フローが増加しているのではないだろうか。そう考えると、大統領選が予定されている2024年は、更に米ドルを下支えするフローが入ってくるかもしれない。

米ドルと円双方の要因に鑑みると、2024年の米ドル/円相場のリスクは、下落よりも上昇の方が大きいと考えている。