日経平均株価は方向性に欠ける荒い展開が続いています。下値の目処は依然として、30,500円付近にあるようですが、逆にこの水準を下回ってくれば、少し下値が見え難くなってくる可能性があると懸念しています。
ファンダメンタルズを見ても、決して楽観できる状況ではありません。米国金利の上昇圧力に翳りはなく、中東情勢も予断が許されない状況にあります。大手不動産会社がデフォルトするなど、中国景気も下押し圧力は高まっているように見えます。当面はこのような状況で下値の目処がどこまで機能するか、がポイントになってくると予想します。
コロナ後、回復傾向のフィットネス市場。2022年にはおよそ4,500億円の水準へ
さて、今回は「フィットネスクラブ」をテーマに採り上げてみましょう。2012年以降、フィットネスクラブ市場は24時間対応やパーソナルトレーニングの浸透をきっかけに急速に成長しました。
Fitness Business編集部によると、2010年頃の市場規模はおよそ4,000億円でしたが、2019年には5,000億円に肉薄するところまで至っていたようです。10年足らずで25%もの市場拡大があったことになります。しかし、コロナ禍により2020年には大幅な調整を余儀なくされ、市場規模は3,000億円強にまで落ち込みました。
その後は徐々に回復を始め、2022年にはおよそ4,500億円まで水準が戻ってきたといった報告がなされていますが、その中身はコロナ前と後で大きく変わることとなりました。今回のコラムではその変化に焦点を当ててみたいと思います。
コロナ前後で変化が見られるフィットネスクラブの需要と供給
コロナ前のフィットネスクラブと言えば、都心立地でマシンの並ぶ大型ジムといった印象が一般的ではないでしょうか。会社帰りや昼休みに通うというスタイルが「健康志向の高い」利用者のニーズに合致したように思います。専門のトレーナーが利用者個々人に最適のトレーニングを設定するというアプローチも、その結果として「成果がしっかり出る」という期待に繋がり、利用者が根気よく継続しようとする意欲を掻き立てる仕組みとなっていました。
これがコロナ禍で大きく変わります。在宅ワークの増加で都心のジムには気軽に通えなくなった上、そもそも3密回避(しかもマスク着用)からジムそのものの利用を躊躇する利用者も増加したのです。
一方で、在宅時間の増加から運動不足に悩む消費者も増加しました。コロナ禍で需要と供給体制における大きなギャップが露わになったと言えるでしょう。コロナ禍の沈静化により、その多くの利用者はジムに戻ってきましたが、生活スタイルの変化定着で、戻ってきていない利用者もまた少なくないのが現状です。
今後、市場が再成長していくには、こうした「自然消滅的な利用者」を再び呼び戻すことに加え、まったくの新規利用者を獲得する仕掛けも必要になってきたのです。ポストコロナ下では、それまでとは異なる新しい切り口で利用者に訴求していくフェーズに入ったと位置付けます。
投資目線で考える、逆転発想で新たな市場を見出すフィットネスクラブの今後
そのような中、興味深い切り口のフィットネスクラブが注目を集め始めました。言わば、これまでとは対極に位置するコンセプトのフィットネスクラブです。
ジムは小規模で住宅街などにも設置、専属トレーナーなどの居ない無人店舗、服装も自由、何回でも何時でも何処でも利用可能、比較的安価で月払定額制、といったシステムです。高い料金を支払うからこそジムに通わなくては、という利用者が抱きがちな発想とは真逆にあり、成果を出すために高い料金も厭わないという成果主義的なスタンスとも異なります。
むしろ、「そこまで一所懸命ではないが、好きな時間に少し体を動かしたい」「トレーナーに管理されたくない」という「比較的緩い利用者」をターゲットにしたものと言えるでしょう。
これまでフィットネスクラブがターゲットとしていなかった層に訴求する「逆転の発想」と言えるかもしれません。そのようなアプローチを実現している企業としては、「chocoZAP」を擁するRIZAPグループ(2928)や「エニタイムフィットネス」を展開するFast Fitness Japan(7092)などが挙げられるでしょう。
特に、chocoZAPは2022年のサービス開始からわずか1年強で会員数80万人、店舗数1,000店もの急成長を遂げています。この快進撃を見る限り、既存産業においてもまだまだ発想の転換で新しい市場を開拓できることを立証してみせた画期的な展開であったと考えます。
もちろん、この試みには「お試し利用者」が一定数含まれている可能性は否めません。緩い利用者であるが故に、3日坊主となって利用を止めるケースもあるでしょう。このようなアプローチがどれだけ既存のフィットネスクラブ市場に影響を与え、どれだけ定着するのかは今後の展開を見極める必要があると考えます。
しかし、株式投資では、事態の見極めができた時には株価もまたそれをかなり織り込んでしまっている、とも考えなければなりません。見極めの難しい現在だからこそ、この逆転の発想を吟味する好機と言えるのです。長期的目線に立った株式投資は「考えた仮説の検証プロセス」です。仮説を立て、新しい切り口の将来性を考えてみることも、長期投資の醍醐味でしょう。