◆「米国の景気はどうでしたか?」と訊かれても、返答に困る。10月24日付け小欄で書いたように、「ニューヨークはアメリカじゃない」から、ニューヨークの街に活気を感じても、それが全米の景況感と即一致はしない。こんなに狭い日本だって、東京と地方では景気に温度差があるだろう。まして広大なアメリカではなおさらである。

◆今回ニューヨークを訪れて印象に残ったのは、街で乞食の姿が目についたことである。去年の同じ時期にもニューヨークに行っているが、その時はそれほど気に留めなかったから、この1年で明らかに増えたのだろう。浮浪者(ホームレス)ではない(あるいはそうなのかもしれないがわからない)。路上に座って物乞いをするひとである。街の至る所で目にした。ダウンタウンでもミッドタウンでも、そして5番街でも。

◆乞食が増えるというのは直感的に景気が悪いという印象をもつ。しかし、彼らは「プロの乞食」、すなわち物乞いで生計を立てているひとである。逆に言えば、物乞いだけで生活が成り立つほど恵んでくれるひとが多くいるということだ。一説によると、彼らのなかには年収で数万ドルも稼ぐ猛者がいるという。乞食が増えるということは、それだけ稼げるからその街に集まってくるのであって、つまりニューヨークが文字通り、カネを降らせる街と化している証拠とも受け取ることができる。

◆証券会社のコラムで乞食の話題とはいかがなものか、と眉をひそめる方もおられよう。しかし、投資家と乞食というのは、取り合わせとしては案外悪くないのだ。特に、安全志向の強い投資家にとっては。なぜなら、A beggar can never be bankrupt. 乞食は破産しないから。Japan can never be bankrupt. 日本は決して財政破綻しない、と胸を張っていいたいものである。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆