金融商品では投資判断の際に数学的アプローチなどを用いて論理的な判断がなされる一方、一般的な投資判断では理性的・直観的な判断をすることが多いでしょう。前者は多くの人に納得される投資判断でしょうし、後者は感覚的で他人には理解されづらい意思決定と言えるかもしれません。

今年2023年6月に死去した経済学者のハリー・マーコビッツ氏は1950年代に分散投資がリスクを軽減する仕組みを科学的に証明しました。現代ポートフォリオ理論の端緒であり、期待リターンとリスクに基づいて各資産への最適な投資比率を決定するもので、あるリスクの水準で最大のリターンを獲得できるポートフォリオの集合を示す有効フロンティアなど現在でも幅広く認識・活用される考え方でしょう。1990年にはその理論によりノーベル経済学賞を受賞しています。

ところで当人は自らの資産運用を聞かれたときに以下の通り答えたとされています。

自分が株を持っていないときに株式市場が大きく値上がりした場合に感じる後悔と、自分が株を持っている時に株式市場が大きく値下がりしたときに感じる後悔について想像した。そこで将来の後悔を最小限にするという意図でポートフォリオを組むことにした。結果、債券と株式に半分ずつ投資している。

数理的なアプローチを考案しながらも自身の現実的な考えに沿って投資判断したようです。元々ポートフォリオ理論では投資家は合理的でリスク回避的であることが仮定されたものの、行動経済学に代表されるように、そもそも我々は合理的ではないという考え方も広まっていますが、自らの投資行動にはその点が勘案されていたかのようにも感じられます。

買いの判断をするときに、数理的に適正な購入量を決めないまでも、買うか・買わないか・半分買うか、は分かり易い対立軸です。売りにおいても値上がりしてきたので、売るか・様子見るか・投資元本分は回収するか、などありますが一部売却するというのは心の整理がつきやすいものです。

為替リスクのヘッジについて、アカデミックの場では詳細に様々な議論がなされつつも、最終的にこの3つが主要なものになっているようです。為替の期待リターンはゼロだからヘッジすべきだ、短期的に意味があっても長期的には意味が無いのでヘッジの必要性なし、後悔を最小化するために半分ヘッジするという具合です。なお、為替ヘッジの論文はドルを軸に海外では盛んになされているものの、円に関して日本でされているものはあまり見かけられないのが実態のようです。

さて、数学的思考は冷静で必要な論理的アプローチながら、計算上一番得をする最適な方法ではなくとも直感や好みも踏まえ自分が納得のいく分かり易い現実的・合理的な判断も尊重されるべきでしょう。未来予測が困難な中では自分の計画をたて、後悔を回避しつつ、定期的な見直しと修正の余地を残すことが特に大切です。一貫性が無いかもしれませんが、何が起こるかわからない中で一貫性のある人生を目指すことの方が難しいでしょう。

もう一方の数理面の興味深さ・直観の危うさついては別の機会に話そうと思います。