◆先日来、僕は小欄で「変化」というものに言及してきた。「相場は変わっていないように見えて刻々と変わっている」「微小な変化に気付くか否かが勝負を分ける」「木の葉の揺れを見て、森全体の激震を知る」などと述べた。それについて読者の方から質問を受けた。<最近、広木さんはよく「変化」について触れていますが、何か相場変調の兆しを感じておられるのでしょうか?>(東京都 M・J)

◆M・Jさん、よくぞ聞いてくださった!その通りである。昨日の日本株相場は急落した。日経平均は420円安。9月1日以来、約1カ月ぶりの安値に逆戻り。9月の上昇分をあっという間に吹き飛ばした格好だ。僕が「変化」に言及したのは、まさにこの急落の予兆を感じていたからなんですよ。

◆「エピングハウスの忘却曲線」という理論がある。心理学者のヘルマン・エビングハウスは人間の脳の忘れ方を曲線で表した。人は20分後には、42%を忘却してしまう。1時間後には56%を、1日後には74%を、1週間後には77%を忘れてしまう。これをうまく使っているのが占い師だ。お客は10個言われたうちの2個しか当たらなかったとしても、その2個が記憶に残り続ける。反対に、当たらなかった8個は都合よく忘れてしまうのだ。

◆戦略特区、御嶽山の噴火と学問の限界についてが2回、ビル・グロス氏の退任、「変化」についてが2回、労働力人口の減少、スコットランド独立問題、米国の金融政策、そして円安。これが過去10回の『新潮流』で取り上げたテーマである。10回のうち相場の「変化」に触れたのは2回だけである。

◆先日、占い師に占ってもらった。「お宅の庭に...」「うちはマンションなので庭はない」「お宅のマンションの中庭に...」「中庭に?」「一本の大きな木があるだろう」「ない」「なくて良かった」

間髪を入れずの答えに思わず、「うまい!」と言ってしまった。木があるかないかは、2つにひとつ。あらかじめ「ある」場合と、「ない」場合の答えを用意しておくのである。そこからまた会話を続けて、相手の情報を引き出していく。「コールドリーディング」というテクニックである。占いなんて100%信じていない。ではなぜ占い師に占ってもらうのか?彼らの語りのテクニックを学ぶためである。占い師になるつもりかって?いえいえ、ストラテジストの仕事に応用するためである。M・Jさんには、誠に申し訳ない。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆