◆昨日の小欄で、火山噴火予知連絡会の藤井敏嗣会長が「噴火を予知することは難しく現在の学問の限界だ」と述べたことを批判的に書いたところ、たくさんのクレーム・反論をもらった。「東大の教授に対してお前ごときが偉そうなことを言うな」「何様のつもりだ」 この類の声は聞き流すとしても、「藤井先生はそんな単純なことを言ったのではない」「自然に対して謙虚なればこその発言だ」という意見には同意する。事実、昨日の小欄でも、「科学が万能でないことはもとより承知のうえだが」と断ったうえで、「科学者たるもの、限界を知ってなお、その先への探求心を失ってほしくない」と述べている。

◆「予知できなかったことを捉えて、まるで『犯人捜し』をするようなメディアにこそ問題がある」という指摘があったが、誠にごもっともである。藤井氏の発言は、そうした確信犯的なメディアへの牽制の意味もあったのだろう。科学への過信を戒め、自然に対して謙虚になるべきとのメッセージだということは僕にもわかる。ただ、謙虚過ぎるがあまり、少し遠慮がちに聞こえたのである。

◆『エースと呼ばれる人は何をしているのか』の著書、夏まゆみ氏は、モーニング娘。、AKB48、ジャニーズ、宝塚歌劇団など300組以上のアーティストにダンスの指導をしてきたひとである。長年にわたり多くの芸能人を指導するなかで、その浮き沈みを見てきた。「成功者と落伍者とを分かつものは何か」を述べていて興味深い。その中の一節に、<「謙虚」になるのはいいが「遠慮」はしてはいけない>というのがある。なるほど、と膝を打つ反面、少しは遠慮というものをしたらどうだろう、と思うようなひともいる。

◆アップルの新型スマホ「iPhone(アイフォーン)6」が曲がってしまった問題で、「スプーン曲げ」で知られる超能力者、ユリ・ゲラー氏がその理由を解説した。ゲラー氏によると2つの理由が考えられるという。ひとつは、「新型iPhoneはあまりにも薄く平べったいので、物理的な力がかかると曲がりやすい」というもの。だが、より真実に近い理由は、「購入した1000万人の興奮がエネルギーとなって超能力を呼び起こし、それがiPhoneを折り曲げた」というのだ。ユリ・ゲラー氏がもっと謙虚であれば、2つの理由の順番を逆にして述べたであろう。但し、「自分が超能力で折り曲げた」と言わなかったところは、少しは世間に対する遠慮というものを学んだのかもしれない。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆