◆昨日はお彼岸の中日だった。中日は混むから避けて、彼岸の入りに墓参りを済ませてしまうのが常だが、先週末は福岡での投資セミナーなどがあり都合がつかなかった。昨日の東京地方は抜けるような青空が広がる秋晴れ。さぞや墓参りは混むだろうと覚悟して出かけたものの、道路も参道も墓地もガラガラで拍子抜けした。子供のころ、彼岸の墓参りは道路が渋滞して嫌だった。墓参客目当てで出店なども出ていて、「お墓参りなのにお祭りの縁日みたいだ」と子供心にも違和感を抱いたものだった。昔は、それだけ多くのひとがお彼岸に墓に参ったのである。今は、彼岸に墓参りをするひとが本当に少なくなった、ということである。

◆日本の生産年齢人口(15~64歳)は、1995年以降、緩やかに減ってきたものの、12年から減少率が加速し、12年末時点で8千万人割れとなった。生産年齢人口というのは、経済活動の中心を担う層だが、経済活動だけにとどまらず社会生活でもっともアクティブに活動する層である。その人口が減っている。つまり率先して墓参りをしようという層の人口が減っているのである。

◆一方、「敬老の日」の小欄でも取り上げたように、高齢者は増加の一途だ。高齢者というのは、言ってみればこれまで墓参りなどの習慣を大切にしてきた層である。そこが増えているなら墓参りは安泰かというとそうではない。霊園墓地というのは大抵が丘陵になっており、足腰の弱ったお年寄りには車がなければ難儀である。車があっても、歳をとるとだんだん億劫になってくるらしい。僕の父の命日は厳寒の時期だが、ここ数年「寒いからお墓に行くのはやめよう」と言い出すのは決まって母である。

◆しかし、それほど人口が減っているという実感はない。ショッピングモールなどは大盛況だ。ひと、ひと、ひとの波である。都市部への一極集中で、人口流入が続いているから僕の周りに「ひと」は大勢いる。だが、彼らのお墓は故郷にあるのだろう、彼岸の墓参りとは無縁である。兎にも角にも、日本の生産年齢人口は減少しており、外食や建設業などで深刻な人手不足が起きている。もっともアクティブに活動する層の人口が減る日本。テーマパークやアウトレットモールなど楽しい場所にはひとが押し寄せる。労働条件が悪い仕事にはひとが来ない。魅力のある・なしで、限られたひとが移動する。お彼岸の墓参りを、魅力のある・なしで判断する時代にはなってほしくない。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆