◆ここ数日で英国の歴史や地理に詳しくなった方も多くいるだろう。日本で、英国またはイギリスと呼ばれる国の正式名称は「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」。イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの連合国家である。僕は、事前に学習済みであった。9月9日付け小欄で書いた通り、ライフネット生命会長兼CEOの出口治明さんのお話を聞く機会があり、その時の課題図書が『仕事に効く教養としての「世界史」』だった。英国の歴史が詳しく書かれている。
◆スコットランドが住民投票で独立を否定した。事前報道では賛成・反対が拮抗していたのに蓋を開けたらこの結果である。決め手となったのは独立後の経済に対する不透明感と言われるが想定通りかもしれない。前例があるからだ。カナダのケベック州のケースが同様だった。事前の世論調査では独立賛成が反対を上回っていたが実際の投票ではそれまで態度を決めかねていた人の多くが反対に回り、独立は否決された。これらをもって「ひとはリスクを嫌う傾向があり、独立反対に傾きやすい」と決めつけるのは早計だろう。
◆今回の騒動で独立賛成派は、投票には負けたが、自治権拡大の闘いには勝利をもぎとった。加えて、各地の「同志」を勇気づけることにも貢献した。スペインではカタルーニャやバスク、ベルギーではフランドル、イタリアのシチリア。これらの地域でも独立への機運が高まっている。
◆これらの民族独立運動とは次元が異なるが、ウクライナ問題や「イスラム国」など地政学リスクの高まりと併せて、ますます現代は「国家」という枠組みで「民族」を縛るのが難しくなっているという意見を耳にする。半分正しく、半分間違っている。「国家」という枠組みで「民族」を縛るのが難しいのはその通りだが、それは今に始まったことではない。紀元前から、国家や民族は勃興と消滅、拡大と併合を繰り返してきた。欧州でもユーラシアでも中国でも。それが「教養としての世界史」が教えるところである。これは歴史の必然であり、それゆえ今後もずっと繰り返されていく。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆