◆9日付の小欄では戦国大名・松永弾正を取り上げた。昨日はアップルについて書き、最後は創業者・スティーブ・ジョブズに触れた。「松永弾正×アップルのジョブズ」とかけて「ジョン・スカリー」と解く。そのココロは?「下剋上」である。

◆「残りの人生、一生砂糖水を売って過ごすのか。それとも世界を変えたいか」。スティーブ・ジョブズが当時ペプシコーラの事業担当社長をしていたジョン・スカリーをアップルの社長に引き抜こうと口説いた名台詞。こんなこと言われたら、誰だってイエスと言うだろう。

◆しかし、ジョブズとスカリーの蜜月は長く続かなかった。対立の末、結果としてジョブズはスカリーに追われるような形で自ら興したアップルを去るのであった。それから10年以上経ってジョブズが復帰するまでアップルは苦境に立たされることになる。ジョン・スカリーはペプシ時代に天才的なマーケティングで成果を挙げたが、結局は良きリーダー、良き経営者にはなれなかったのかもしれない。

◆それはIT業界では、という意味ではない。「砂糖水」業界においてさえ、やはりコカ・コーラのCEOのほうが優秀ではなかったか。例えば、ロベルト・ゴイズエタ。就任間もなく幹部たちとの会合に出たゴイズエタは、世界のソフトドリンク市場でコカ・コーラが45%のシェアを獲得したといって経営陣が浮かれ、「慢心」という座布団のうえで胡坐をかいている様子を知る。

◆彼は3つの質問をした。「人間の1日の水分摂取量は?」「世界の人口は?」「ソフトドリンク市場ではなく、飲料市場全体でみた場合のわが社のシェアは?」答えは2%であった。これを機会に同社はアグレッシブな経営戦略に転換、劇的な成長を遂げたのである。これぞ、リーダーシップの見本というような話である。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆