直近のJ-REIT価格動向

J-REIT価格は、ようやく2022年末の水準を超える場面となった。東証REIT指数は7月26日に12月28日以来、7ヶ月ぶりに1,900ポイント台を回復、2022年末の1,894ポイントを2023年に入って初めて上回った。

2023年の東証REIT指数は、3月中旬の急落から5月にかけての上昇という局面を除けば、ボックス圏での推移が続いていた。5月までの上昇基調の要因は、米国10年債利回りの低下に伴う物流系銘柄の価格上昇(利回り低下)であった。しかし、米国10年債利回りは5月中旬から再度上昇基調となり、7月初旬には4%を超えるなど高い水準での推移となっている。

従って、物流系銘柄の価格は下落基調となっている。例えば、時価総額が最も大きい日本プロロジスリート投資法人(3283)(以下NPR)は、5月に32万円台まで上昇し年初来高値を更新していたが、その後は下落に転じ7月26日は30万円を割り込む水準になっている。

一方で東証REIT指数は、年初来高値を更新した。これは、時価総額が大きいオフィス系銘柄の価格が7月になって上昇基調が鮮明になっているためだ。NPRと同様にオフィスで最も時価総額が大きい日本ビルファンド投資法人(8951)に目を転じると、5月中旬の56万円程度から7月26日には62万円台まで上昇している。

物件取得リスクが高くなっているため、予想分配金を重視すべき

J-REITの銘柄判断の上で、物件売却益や固都税の繰延べ効果(※1)を考慮した「巡航分配金」を重視して投資を行うことは重要だ。J-REITでは物件売却が増えているが、多くのメディアでは売却益計上はプラス材料としつつ、売却に伴いポートフォリオ規模が小さくなることへの懸念を報道している。ポートフォリオ規模が小さくなれば、巡航分配金は減少することになるためだ。

しかし、先進国の中で日本だけが不動産売買価格の上昇が続き、その期間が長引いていることを考慮すると巡航分配金に固執するリスクが大きくなってきていると考えられる。

まず、物件価格の高騰が続いていることで、取得する物件が将来含み損に転じる可能性が高くなる。また、プレミアム増資(※2)で物件取得しても、取得物件の利回りがポートフォリオ利回りより低いため、分配金の減少に繋がる可能性が生じている。

さらに物件価格高騰に対応するために、開発期間に係わる時間経過リスクをとって物件取得を行うという開発型物件の事例も増えている。直近の事例では、ユナイテッド・アーバン投資法人(8960)(以下UUR)が7月25日に博多駅徒歩8分の土地取得予定を公表した。

UURは既存建物解体と土壌汚染調査を経て、ホテルを2026年9月に竣工させる予定としているが、3年間の不動産価格やホテル市況の変動リスクを抱えたものとなっている。開発型物件の取得事例は、リーマンショック前に多く存在していた。現状の不動産売買市況が極めて過熱していることが窺える。

一方で、リーマンショック前と異なる点として、多くの銘柄が物件売却を複数決算期に分けて行い、さらに売却益の内部留保も可能となった点だ。この点は分配金の安定性を高める効果が生じている。

前述の物件価格高騰によるリスクを考慮すれば、ポートフォリオ規模が小さい銘柄を除き(※3)、一定規模以上の銘柄は保有する物件の含み益を実現化する動きを重視するべき時期と考えられる。当面の巡航分配金水準を堅持することが将来のリスクに繋がりやすいためだ。

代わって、ポートフォリオ規模が小さくなり巡航分配金水準がやや低下したとしても、潤沢な内部留保や売却益で「予想分配金の下限水準を引き上げる」動きの方が、投資家の利益に叶う状況にあると考えられる。

※1 不動産の固定資産税・都市計画税はその物件を取得した年には費用化されず、翌年から損益計算書上で反映するかたちになるため、取得年は当該物件の収益が押し上げられている効果のこと。
※2 増資前の1口当たり出資額を超える価格で増資を行うこと。増資前を比較して同一の資金調達額に対して発行口数が少なくなるため、分配金を増加させる場合が多い。
※3 ポートフォリオ規模の小さい銘柄は、物件の分散効果が低いというリスクと時価総額が小さ過ぎるため機関投資家の投資対象から外れるというデメリットがある。従って取得リスクをとっても規模拡大のメリットが上回る場合がある。