FOMC(米連邦公開市場委員会)について簡単に。ポイントは25bpsの利上げをあと2回 - おそらく7月と11月 - に行うというドットチャートの示唆だ。GDP成長率の上方修正と失業率の下方修正、つまりFRB(米連邦準備制度理事会)は、米国景気は強いとみているわけだ。米国のリセッション懸念というものがあるが、おそらく軽微なものになるだろう。日本企業の業績にたいした影響はないと思われる。

さて、いつもなら金曜日にアップしているストラテジーレポートを前倒して出したのは、解散総選挙がかなり濃厚になったからだ。16日にも立憲民主党が内閣不信任案を提出、岸田首相はそれを「大義」として解散総選挙に打って出るとの見方が強まっている。同時に16日には日銀の金融政策決定会合の結果が出る。「無風」通過となれば、そこから買いが膨らむだろう。

今晩のNY市場の結果にもよるが、明日16日は朝から日本株の買い場探しとしたい。押すような場面があれば、すかさず拾うべきだろう。なにしろ「NFダブル・インバースETF」の残高が10億口からまったく減っていない。潜在的な買い戻し圧力が強大にあるので、押し目が入らないまま上伸していく可能性すらある。

NF 日経平均ダブルインバース・インデックスETF(1357)
(出所:取引所データよりマネックス証券作成)
 

6月12日のオンラインセミナー「Monday Night Live」で回答しきれずに残してしまった質問の中に、以下のようなものがあった。 

『日経平均が32,000円台に乗せ、さらに上昇する強い気配を感じています。海外勢が上昇の大きな要因ですが、海外勢はどこまで買い進むのでしょうか。海外勢が引き上げるきっかけとなる大きなリスクはどのようなことが考えられますか。』(のぶちゃん様からのご質問)

この問題に答えるには、なぜ海外投資家が日本株をこれほど大きく買い始めたのかということを考える必要がある。

上場企業の業績は3期連続で最高益を更新する見通しであり、日銀の金融緩和は当面維持されることから日本の金利は世界的に見て低いままだ。業績と金利から言えば、日本株は素直に「買い」という判断になる。そこに、もうひとつ重要なファクターがある。日本経済および企業業績の成長率だ。成長期待がアップしたから海外投資家の日本を見る目が変わったのだろう。

成長率の見通しを引き上げたものはなんだろう。30年ぶりの賃上げ率に象徴されるデフレ脱却の兆しや、東証の資本効率改善要請を受けたROE(自己資本利益率)向上期待などが指摘できるだろう。それらに加えて、実は「デリスキング」も日本株の成長期待を高めた要因ではないかと思う。

「デリスキング」は先の広島サミットの共同宣言にも盛り込まれた言葉だ。先進国は対中国のスタンスを「デカップリング」から「デリスキング」へと変更した。中国との分断を表立って掲げることなく、一方で過度な中国依存を解消し、サプライチェーンの再構築を目指すスタンスだ。その文脈で、東アジアにおける経済安全保障の舞台として日本が急速にクローズアップされてきた。日本のプレゼンス、言い換えれば「重要性」が上がったということだ。

岸田首相は広島サミット直前の5月18日、世界をリードする半導体7社のトップらと首相官邸で面会した。首相は半導体企業トップに「政府を挙げて半導体産業への支援に取り組みたい」と、日本への投資拡大を呼びかけた。それに応じて各社からは続々と日本への投資・事業計画が報道されている。事業計画を合わせると投資額は2021年以降で2兆円超になるとの試算もある。乗数効果を考えれば日本経済への影響は測り知れない額となるだろう。今後AIが一段と普及することはほぼ確定的で、それに伴う半導体産業の成長性は言うまでもない。その一大生産拠点に日本がなるとすれば日本企業の成長期待が上方修正されて然るべきではないか。

日経平均のPER(株価収益率)が15倍を超えてきた。株価が割高であるとの指摘があるが、まったくそうではない。その理由は、

  1. 過去平均(例えばアベノミクス開始以来の過去10年平均)のPERは15倍強。やっと平均並みに戻っただけである。
  2. 業績の上振れが織り込まれていない。足元の円安だけでも上方修正の余地がある。今後、上方修正されるであろう予想EPS(1株あたり利益)を想定すれば、まだ割安である。
  3. 成長率が高まるとバリュエーションは上昇する。PERは以下のように表される。

 P/E = 1/r-g

rは割引率または資本コスト、つまり市場の期待(要求)リターンである。PERは期待リターンの 逆数だ。そこからg=成長率の分を減じると分母が小さくなる。よってPERは高くなる。ハイテクなど成長株のPERが高いのは成長期待が高いためである。

日本株のPER上昇は成長期待の上昇に裏付けされた理論的なものであり、現在の株価はフェアバリューであると考える。

「のぶちゃん」さんの質問に答えると、こうしたことから海外勢の買いは、ちょっとのことでは途絶えないだろう。海外勢が引き上げるとすれば、前回のアベノミクスの時のように、最初にあった「日本企業は変わる」という期待が裏切られた時だ。その意味では足元で盛り上がっているPBR(株価純資産倍率)改善の流れを途切れさせないことが何より重要になるだろう。