先週の動き:6月のFOMCが金利据え置き観測から一時2,000ドル突破、週末米雇用統計で上げ幅を削って終了

先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は週足で4週間ぶりの反発となった。メモリアルデー(戦没者追悼記念日)の祭日の関係でNY市場は4営業日となったが、2週間後に迫る米連邦公開市場委員会(FOMC)を前に米連準備制度理事会(FRB)高官の利上げ見通しを巡る発言に加え、NYコメックス先物取引の限月交代(6月物→8月物)により20ドルほど取引の中心となる価格が押し上げられたこともあり、結果的に前週に比べ値動きが大きくなった。

限月交代に際しては、理論的に短期金利を反映したプレミアムが上乗せされた価格が自然に形成されることによる。

先週のNY金の反応を大きくしたのは、まず5月31日の講演で次期FRB金融政策担当副議長に指名されているジェファーソンFRB理事が6月の利上げ見送りに前向きな姿勢を示したことだった。

6月のFOMCが金利据え置きに傾いていることを示唆した上で、そうすることでここまでの金融引き締めの影響を検証する時間が確保できるとした。ただし、「政策金利の据え置きを決定したとしても、金融政策の引き締めが終了したと受け止めるべきではない」と釘を刺した。前週にウォラーFRB理事も同様の発言をしており、FRB理事間では6月見送りの合意形成が進んでいるとみられた。

前週は複数の地区連銀総裁による利上げ継続のタカ派発言を受け、上昇基調を強めていたドル指数(DXY)と米長期金利は、利上げ見送り発言を受け急低下し、買い優勢となった金市場は5月中旬以来となる2,000ドル大台を回復した。週初は一時1,931ドルまで売られていた。

ところが、この反転相場は週末6月2日に冷や水を浴びせられることになる。この日発表された5月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が33万9,000人増と2ヶ月連続で加速し、市場予想(ロイター調べ)の19万人増を大幅に上回ったことによる。米長期金利の上昇とともにDXYも水準を切り上げ、逆にNY金は下げ足を速めた。

結局、6月2日の通常取引終値(清算値)は1,969.60ドルとNY時間外のアジア時間に付けた2,000.50ドルから水準を大きく切り下げることになった。それでも週足では前週末比25.30ドル、1.3%の上昇と4週間ぶりの上昇で終了となった。レンジは1,931.00~2,000.70ドルと拡大、先週のコラムでは想定レンジを1,910~1,960ドルとしていた。想定より高値が切り上がったのは、FRB利上げ見通しの影響の大きさを物語っている。

一方、国内金価格は週末にかけて米長期金利が上昇したことを受けて、米ドル/円相場が円安傾向を強め140円台に乗ったことから、米ドル建て価格の下げ分は相殺されることになった。週足は75円、0.85%の上昇でレンジは8,719~8,840円となった。先週のコラムでは想定レンジを8,680~8,820円に置いていた。

ヘッドライン(33万9,000人増)の強さほど評価されなかった5月米雇用統計

雇用者増加数を見る分には、なお過熱を思わせる米雇用統計だが、細目からは軟化の兆しが読み取れるものでもあった。そのため、今回の結果を受けてもFRBによる6月利上げは見送りとの見方が大勢を占めている。

失業率は前回の3.4%から3.7%と7ヶ月ぶりの水準に上昇。時間当たりの平均賃金は前月比0.3%上昇、前年同月比4.3%上昇と、ともに前月から伸びが鈍化した。インフレとの関連で平均時給の伸び率がまず注目されるのは毎回のことだが、引き続き鈍化傾向を示し、インフレの鎮静化を示唆した。

今回注目されたのは、失業率の前月からの上昇幅である。前月比0.3%ポイントの伸びは2020年4月以来の大きさで、失業者数は5月に前月比44万人増加となった。新型コロナウイルス禍が始まった直後に記録的に急増した時期があったが、それに次ぐ大きさとなった。

FRBがこの上昇に注目するとの指摘がある。さらに、週平均労働時間が34.4時間から34.3時間に低下し、やはり2020年4月以来の低水準となったこと。景気が弱まり始めると、雇用主は人員を削減するより、まず労働時間を減らす傾向があるとされる。企業は採用に熱心だが見た目ほど需要は強くない、との指摘がある。

中銀は金準備の積み増しに熱心か。WGCの中央銀行サーベイを読み解く

5月30日に発表された国際的な金の広報調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(略称WGC、本部ロンドン)の調査(2023 Central Ba)によると、中央銀行は依然として金準備を増やすことに非常に熱心で、24%が今後12ヶ月間に買い増す予定と回答。

基軸通貨米ドルの将来の位置付けに関しては、2022年の調査より悲観的な見方が増加している。一方で、ゴールドの位置付けは高まるとの見方で、保有資産に占めるゴールドのシェアが拡大するとした答えは、2022年の46%から今回は62%に増えていた。

地政学的な懸念、金利懸念、インフレ圧力の高まりに後押しされ、新興国中央銀行による金準備の積み増しは、2022年の1078トン(2023年第一四半期統計にて1,135トンから下方修正)には及ばないものの、高水準の買いが続くとみられる。

今週の見通し:米連邦債務上限問題は一巡、FOMCを控え方向感の出にくい展開。NY金は1,950~1,980ドル、国内金価格は8,700~8,840円と高値圏での滞留

5月31日の下院に続き、6月1日夜に米上院が債務上限停止法案(財政責任法案)を賛成多数で可決した。バイデン米大統領の署名を経て成立する。デフォルト(債務不履行)という最悪の事態が避けられ、株式市場を中心にリスクオン・センチメントの広がりも、先週末の金市場では売り拡大に繋がった。

なお、格付け会社フィッチは、デフォルトが回避されたものの、米国の「AAA」格付けに対する「ネガティブウォッチ(引き下げ方向での見直し)」を維持するとしている。ただし、金市場の手掛かり材料としての連邦債務上限問題は一巡したと言える。

その一方、法案が通ったことで、米国財務省は資金手当ての必要性から財務省証券の発行が急増するとみられ、金融市場ではかなりの引き締めになるとの警戒感が高まっている。

今週は米国関連の主要指標の発表は限られ、翌週に米連邦公開市場委員会(FOMC)を控えFRB高官の発言もなく方向感の取りにくい流れとなりそうだ。米国景気を下支えしているサービス業の先行きを占う上で、6月5日発表の5月ISM非製造業景況指数に注目が集まる。

NY金については、先週末通常取引終了後の時間外取引でも売り圧力が持続し、週末の取引を1,964.30ドルで終了し、ほぼ安値引けに近い形での終了となった。したがって、心理的な節目の1,950ドルを維持できるかが注目される。先週一時2,000ドルに到達する過程で1,950ドルラインは何の抵抗もなく突破したことから、節目との意識は薄いとみられる。

NY金については1,950ドルをやや上回る狭い範囲のレンジ相場となりそうだ。それでも利上げ見送りバイアスを考慮し、想定レンジは1,950~1,980ドルとしたい。一方で、国内金価格は140円を超えての円安深化は限定的と見るものの、8,700~8,840円と高値圏での滞留を想定している。

【図表】ゴールド 縦軸:円建てゴールド/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券