米国株式市場は債務上限引き上げ合意、利上げ停止への期待感から上昇

先週、S&P500は1.83%上昇、ナスダック100も1.74%上昇して終えました。5月24日にウォール街のアナリストの予想を大幅に上回る好決算を発表したエヌビディア(NVDA)の株価は、先週も0.98%上昇、株価が初の400ドル台に乗せ、半導体企業として初めて時価総額1兆ドル超えを果たしました。その他、米国企業ではアップル(AAPL)、アルファベット(GOOGL)、アマゾン・ドットコム(AMZN)、マイクロソフト(MSFT)の5社がすでに1兆ドルの節目を超えています。

先週は連邦債務上限引き上げに関する法案が議会上下院で採決され、マーケットの懸念材料の1つが解決したことで上昇しやすい環境にあったと言えます。加えて、FRB(米連邦準備制度理事会)のジェファーソン理事らが6月の利上げの見送りに前向きな姿勢を示したこともマーケットが買われた理由の1つです。

また、6月2日(金)に発表された5月の雇用統計を受け、株式市場はポジティブな反応を示しました。非農業部門雇用者数は、前月比33.9万人増と事前予想(19万人増)を上回り、経済の拡大を示唆する内容でした。

一方、失業率の方は前の月より0.3ポイント上昇して3.7%と、事前予想の3.5%を上回りました。市場が注視したのは、週平均労働時間が事前予想の34.4時間に対し34.3時間であったこと、また時間当たり平均賃金が前月比4.3%上昇と、事前予想4.4%を下回り、賃金インフレの懸念を和らげる内容であったことです。

CMEグループのフェドウオッチツールによると、フェデラル・ファンド(FF)金利先物市場では、FRBが6月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で金利を据え置く確率は71.3%となっています。雇用統計発表前日の79.6%から下がったというものの、引き続き71.3%という高いレベルとなっています。次回のFOMCは6月13-14日に予定されています。

米国での債務上限引き上げが合意に至り、デフォルト(債務不履行)が回避される見通しとなったこと、また次回会合で利上げの停止が期待されているというニュースは米国外の株式市場にもポジティブな影響を与えました。アジア時間では、この所軟調に推移していた香港のハンセン指数が、2日(金)には1日で4%と大幅に上昇、また、ハンセン中国本土企業株100指数も同日4.5%上げています。1日(木)発表された5月の中国製造業購買担当者景気指数(PMI)は50.9に上向き、2ヶ月ぶりに景況判断の境目となる50を回復したことや、4月の香港小売売上高が前月からは縮小したものの市場予想を上回る結果であったこともマーケットに安堵感を与えました。

ベアマーケットへ別れを告げる米国株

つい最近まで「リセッション(景気後退)」がキーワードの1つとなっていた米国株式市場ですが、そのような懸念とは裏腹にポジティブな展開が進行しています。S&P500はこれまで指摘してきた4,200ポイントというレンジの上限を超えて推移しています。

S&P500は、2022年1月3日に史上最高値を更新後下落に転じ、2022年10月12日までの282日間で25.4%下落、ベアマーケット(弱気相場)入りしました。ベアマーケットの定義は、20%以上の下落のことです。その後、S&P500は、2022年10月12日に安値(3,577ポイント)をつけてから19.7%上昇しました。この間223日です。ブルマーケット(強気相場)の定義は20%の上昇です。あと11ポイント上昇し、4293.4ポイントを抜けてくると、S&P500は20%上げたことになり、S&P500のベアマーケットが終わり、定義上ブルマーケット入りとなリます。

未だマーケットに対し悲観的、懐疑的な見方をするプロの投資家が多い中、米国株はブルマーケット入りしそうです。1929年からこれまでの米国での平均的なベアマーケットの下落率は35.1%で、平均的なベアマーケットの期間は286日ですが、中間値では240日ですので、今回のベアマーケットは期間としては平均並みと言えるでしょう。

では、ブルマーケットが起きると株価の上げはどのくらいの期間続くのでしょう。これまでブルマーケットは、平均1,011日続き、中央値では522日となっています。これまで223日経っていますから、ここから年末にかけて株価が上昇を継続しても不思議ではありません。

1929年からのデータを見ると、ブルマーケットにおける上げ幅は平均で114.4%、中央値で76.7%となっています。近いうちにS&P500がブルマーケット入りするとすれば、今後も米国株は時間をかけて上昇を継続すると考えられます。

GAFAM以外の銘柄には割安感が

これまでマーケットでは、一部の限られた時価総額の巨大なテクノロジー銘柄しか上昇していないことが問題視されていました。確かにここまで米国株式市場を牽引してきたのはGAFAMに代表されるメガキャップ銘柄でした。しかし、6月2日(金)には、全てのセクターが上昇し裾野が広がってくる気配が見られました。また、1日(木)、2日(金)の2日間でS&P500が2.45%上昇する中、小型株指数であるラッセル2000は4.64%上昇しています。

バリュエーションを見ると、S&P500の現在のPEレシオは19.4倍で割安感がないものの極度の割高感もありません。S&P500は時価総額加重平均で構成されており、アップルのような時価総額の大きな銘柄のバリュエーションが市場全体のバリュエーションに影響を与えます。一方、全ての銘柄のバリュエーションが同じように影響を与えるS&P500均等加重指数の現在のPEレシオは15.9倍と割安に放置されているのです。つまり、GAFAMのように時価総額が極度に大きくない銘柄の株価は割安に放置されており、今後株価の上昇が期待されるということです。

今週アップルの新製品発表に注目

5月29日付のコラムで述べた通り、今週5日(月)には待望のアップルのApple Glassと呼称されている 複合現実(MR)ヘッドセットが発表される見込みです。アップル株は2023年に入ってからすでに39.3%上昇しました。2日(金)の同社株価は180.95ドルです。これは2022年1月4日に付けた182.94ドルという史上最高値からたった1.1%下の株価のレベルとなっています。もし、実際にMRヘッドセットが発表され、マーケットが好感すれば、今週前半にアップル株は史上最高値を更新する可能性があると考えられます。そうなると、米国株のサマーラリーの始まりをトリガーするイベントとなるでしょう。もちろん、これは楽観的な見通しですが、現実味のある可能性の1つではないかと思います。