最高益を更新する企業が数多く見られた3月決算

今回は発表されたばかりの3月決算企業の決算の概要について解説します。

ゴールデンウィークの直後、例年のように企業の3月決算が出そろいました。企業業績は株価の見込みを立てる上で最も基本的かつ重要なデータです。

発表されたばかりの企業業績の全体像については、日本経済新聞の集計値と東洋経済新報社の「会社四季報」が正確で、非常に有益です。日本経済新聞は企業からの決算数値が出そろってから1週間以内に紙面に掲載されます。また「会社四季報」には6月中旬に発売される「2023年・第3集(夏号)」に反映されます。

速報性が高いのはやはり日刊紙である日本経済新聞です。今回は2023年5月20日の朝刊に掲載された集計値を基準に解説します。

それによれば、前2023年3月期の上場企業(1,154社)の売上高は737.3兆円(前年比+16.4%)、経常利益は55.9兆円(+0.8%)という内容でした。

ここ数年、企業を取り巻く経営環境はかつてなく厳しくなっています。コロナ禍による行動制限、ウクライナ危機がもたらした国際物流の混乱、それらが複合した形での物価上昇。人手不足による人件費の高騰、電力料金、原材料費の上昇、円安、値上げに見合う新製品開発の研究開発費、広告宣伝費の増加など、コスト高のプレッシャーは高まる一方です。

また、米国と中国の政治的な対立は一段と先鋭化しており、これらすべてを企業努力で吸収するのは容易ではありません。企業を取り巻く環境は複雑さを増す一方で、非常に厳しい状況が続いています。

しかし、先進国ではコロナ禍を徐々に克服して、経済活動はほぼ通常通りの姿に戻っています。それがサービス業及び宿泊、飲食、小売業の売上げ回復に貢献しています。

そのようなハードルを押しのけて、最高益を更新する企業が数多く見られる点も今回の決算の大きな特徴です。一言で表現すれば、優勝劣敗が一段と激しくなっているのです。

日本経済新聞がまとめた今2024年3月期の見通し(1,074社)は、売上高が711.7兆円(+0.7%)、経常利益は56.4兆円(+2.3%)となりました。新年度がスタートしたばかりで企業は慎重な構えを取っていますが、小幅ながらも増収と増益が続くあたりに企業サイドの前向きなスタンスが反映されています。

2024年3月期、業績見通しが良好な業種

業種別に見ると、今期の業績見通しが良好な業種としては、製造業では「自動車」と「機械」です。非製造業では「小売」と「鉄道・バス」が安定した伸びを見込んでいます。

「自動車」は売上高(前期+19.9%、今期+6.4%)と経常利益(前期+0.8%、今期+5.6%)がそろって安定した伸びとなっています。前年度は半導体の調達不足が長引いて、生産計画を何度も下方修正せざるを得ませんでした。それがいよいよ正常化しつつあり、生産活動が戻ってくる様子がうかがえます。

自動車業界と密接な「機械」セクターも同様に好調な見通しです。売上高(前期+17.7%、今期+3.5%)、経常利益(前期+17.9%、今期+4.2%)と、ともに安定した伸びを見込んでいます。

製造業のもう1つの柱である「電気機器」は、半導体の在庫調整もあって、今期は慎重な見通しです(売上高:前期+11.1%、今期▲2.1%、経常利益:前期+0.4%、今期▲3.5%)。巣ごもり消費で需要がブーム化した、PC、スマホ市場の調整も長引いているようです。

非製造業では、「小売」(売上高:前期+6.6%、今期+5.2%、経常利益:前期+5.8%、今期+8.2%)が、「アフターコロナ」の経済正常化に乗って順調に回復しています。

同じように「鉄道・バス」(売上高:前期+20.9%、今期+8.4%、経常利益:前期は黒字転換、今期+24.1%)でも好調な様子が見てとれます。

反対に前期大きく業績を伸ばした「商社」と「海運」は、今期は特需的な要素が剥落することから慎重な見通しに徹しています。市況高騰の恩恵は何年も持続するのが難しいほど、それほどに大きなものでした。

以上のような全体像に立って、今期の業績見通しから好調な銘柄をセクターごとにいくつかピックアップしてみます。

3月決算が好調の注目銘柄

■自動車関連

本田技研工業7267

(売上高:前期+16.2%、今期+7.6%、税引前利益:前期▲12.3%、今期+26.3%)
二輪車の世界トップ企業。四輪車でも世界トップクラスの技術と販売実績を持つ。水素を燃料とした燃料電池車もすでに開発済みで、小型ジェット機「ホンダジェット」も販売するなど独自の技術が持ち味。前期はアジアを中心に二輪車の回復が収益を支えており、2030年までにハイブリッド車を含めて国内は100%電動化する計画を強力に推進中。EV戦略では米GMと提携し、ソニーとは合弁企業を設立。

【図表1】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年5月26日時点)

デンソー6902

(売上高:前期+16.1%、今期+7.6%、税引前利益:前期+18.7%、今期+21.5%)
自動車部品の国内トップ企業。世界でも第2位に位置する。トヨタ自動車から分離独立したトヨタ直系企業だが、売上高の50%はトヨタ向け以外で構成される。熱交換器、ヒートポンプ、EV用駆動システム、自動衝突防止用のミリ波レーダーに強く、パワー半導体など車載搭載用半導体で世界トップ5に位置付ける。水素エネルギーを創り出す水電解装置や固体酸化物燃料電池も開発済み。トヨタグループ変革のカギを握る。

【図表2】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年5月26日時点)

■機械関連

オークマ6103

(売上高:前期+31.7%、今期+1.0%、経常利益:前期+69.8%、今期+0.2%)
工作機械の大手。1963年に日本で初めて自社製造のNC(数値制御)装置を開発。工作機械が自律的に判断して最適な加工を施す「スマートマシン」化を進めてきた。創業から120年以上にわたるスマートマシン化の技術が、第4次産業革命と呼ばれる自動化ロボット、人工知能を統合した生産革新で世界中のものづくりの現場を主導する。2023年1-3月期の売上高は史上最高を更新。今期見通しは慎重だが受注残も過去最高レベルに達しており、期中の増額修正は必至と見る。

【図表3】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年5月26日時点)

小松製作所6301

(売上高:前期+25.4%、今期▲4.6%、税引前利益:前期+46.8%、今期+0.1%)
建設機械では国内トップ、世界でも米キャタピラーに次いで第2位。建機にIT機能を搭載して、山奥の鉱山や森林の中でも機械自らが給油し、稼働、停止する自動化をいち早く推進。建設現場での人手不足は深刻化する一方だが、解決策として「スマートコンストラクション」を提言。建設プロセスのあらゆるデータをつなぎ、測量から検査まですべて「見える化」することで安全な現場を創造する。今期は為替前提を1ドル=125円と慎重に見積もっており、期中で増額修正される可能性も。

【図表4】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年5月26日時点)

■小売関連

マツキヨココカラ&カンパニー3088

(売上高:前期+30.3%、今期+3.0%、経常利益:前期+49.7%、今期+3.4%)
日本最大のドラッグストアチェーン。老舗のマツモトキヨシがココカラファインと経営統合して誕生。コロナ前のデフレ期は「安くて良いもの」を扱うチェーン店として人気を博したが、コロナ後はそれに加えて健康志向の高まりと、日常生活をより充実させる消費者の意識変化に応えている。インバウンド消費の回復も大きな追い風に。既存店売上高は2022年度後半から一貫してプラス圏を維持。新規出店を再び強化しており、史上最高益を更新中。

【図表5】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年5月26日時点)

エービーシー・マート2670

(売上高:前期+18.9%、今期+4.0%、経常利益:前期+53.4%、今期+3.6%)
ご存じ「ABCマート」。(2月決算ですが業績好調なので取り上げます)日本最大のシューズ専門店を直営方式で全国に展開。小売り業態でありながら自社製造の「HAWKINS」、「VANS」の人気ブランドを有する。経済再開に加えて、コロナ後は健康志向が一段と高まりウォーキング、ランニングブームが業績をさらに押し上げる。国内旅行もブームの様相でシューズの買い替え需要が起きている模様。インバウンドでもスニーカー人気は健在で、円高メリットあり。最高益更新の見込み。

【図表6】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年5月26日時点)
 
■鉄道バス関連

九州旅客鉄道9142
(売上高:前期+18.9%、今期+4.0%、経常利益:前期+53.4%、今期+3.6%)
九州を地盤とする4番目のJR会社。地方創生の象徴・九州の大動脈を司る。日本初のクルーズトレイン「ななつ星in九州」、九州・長崎新幹線、特急「ゆふいんの森」、秘境を走る「SL人吉」や「いさぶろう・しんぺい」、特急「かわせみ やませみ」など独自デザインのストーリー列車を数多く有し、鉄道ファンの間でも人気が高い。TSMC熊本工場の稼働が1年半後に予定され、産業界からも熱い視線が注がれる。

【図表7】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年5月26日時点)