◆僕は天邪鬼だから14日に開業した北陸新幹線の話題をあえて避けた。みんながその話題を取り上げるから自分は別な切り口で書いた。つまり「人の行く裏に 道あり 花の山」だ。と、いうのは嘘である。新聞と違って、小欄は土日が休み。「新幹線、開業」のようなテーマは、やはりその当日のコラムで書かなければ意味がな い。書きたくても書けなかった、というのが本当のところなのだ。

◆「もうはまだなり、まだはもうなり」という相場格言がある。日本証券業協会のHPは「人の行く裏に道あり 花の山」と並ぶくらい有名な言葉だとして、こう解説している。「もう底だと思えるようなときは、まだ下値があるのではないかと一応考えてみなさい。反対 に、まだ下がるのではないかと思うときは、もうこのへんが底かもしれないと反省してみてはどうか。つまり、微妙な相場の変化に対して、自分だけの独善的な 判断を振り回すことが、いかに危険であるかを説いた言葉といえよう」

◆証券業協会がそういうのだから、それが正しい解釈なのだろう。しかし、僕には別の意味もあると思える。まだ北陸新幹線の話題を書いてもいいか、いや、も う遅いだろう...などと逡巡しているうちに結局書くタイミングを逃してしまう。もう底か、いやまだ底じゃない、まだ上値があるか、いやもう天井だろう、 というようにあれこれ迷っているうちに好機を逃してしまうことを諌める言葉ではないかと思うのだ。

◆日経平均は1万9300円台をつけることが多くなってきた。2万円までは率にしてあと3.6%である。一昔前は遥か遠くに思われた2万円が今はすぐ手の 届くところに来ている。「まだ」遠いと思われたところが、「もう」すぐに到達できるのは、「かがやき」がつなぐ北陸への道だけではない。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆