エネルギーの供給構造を根本から見直す必要がある理由
今回は再生可能エネルギーについて解説します。現在、広島で開催されるG7においても脱炭素・再生可能エネルギー分野のサプライチェーン(供給網)の枠組みづくりが議題となっています。
また、温暖化対策の国際枠組みである「パリ協定」の目標達成が危うくなっています。2023年3月には、IPCC(国連・気候変動に関する政府間パネル)は9年ぶりとなる統合報告書(第6次)を発表しました。そこでの骨子は、気温の上昇を産業革命前から2度(努力目標として1.5度)以内に抑える「パリ協定」の達成には、温暖化ガスの排出量を2035年に2019年比で60%減少させる必要があると指摘されていました。
これは従来と比べても相当に厳しい数値です。これまでの先進国の目標は「パリ協定」に沿って、2030年に2010年比で45%の削減を目指すというものが大半でした。しかし今回の統合報告書では、その程度では現在の温暖化を食い止めるにはまったく不十分だと指摘しています。
気温の上昇を止めるために、さらに2040年には69%、2050年には84%減らす必要があるとの分析も示されました。
日本は菅政権時に、2030年度に2013年度比で26%の削減を目標として掲げました。発表時点ではかなり大胆な目標にも感じられたものです。しかし今回のIPCC報告にははるかに届かきません。現在の各国の目標を積み上げただけでは「極めて不十分」だということです。
石炭や石油を使用することで物質的な繁栄を築いた人類は、文明史的な転換点に立たされています。これまで以上に厳しい温暖化ガスの削減目標を早急に打ち立てる必要があります。
気温の上昇がパリ協定の目指す「1.5度以内」を超えてくると、異常気象のリスクが俄然高まるとされています。それを防ぐには温暖化ガスの排出量を、森林などで吸収できる除去量と均衡させなければなりません。大気中の温室効果ガスの量を一定に保つ必要があり、そこにいわゆる「カーボンニュートラル」の考えが出てくるのです。
日本の温暖化ガスの排出は、90%以上がエネルギーに由来しています。温暖化問題は実質的にはエネルギー問題です。エネルギーの供給構造を根本から見直さなくてはなりません。そこで「再生可能エネルギー」がきわめて重要なカギを握ります。
再生可能エネルギーとは、電気を作る元となる1次エネルギーが枯渇せずに何度でも使えるエネルギー源を指します。代表的な再生可能エネルギーは太陽光、風力、バイオマスです。これらの対極にあるものが石炭や石油などの化石燃料です。
日本の発電比率は2019年度で、天然ガス(37.1%)、石炭(31.9%)、水力(7.8%)、石油(6.6%)、原子力(6.2%)となっています。
再生可能エネルギーは10.3%にとどまり、太陽光(6.7%)、風力(0.7%)、バイオマス(2.5%)、地熱(0.3%)の順です。
日本のエネルギー構成は第5次エネルギー基本計画において、初めて再生可能エネルギーが主力電源として位置づけられました。そして2021年の第6次エネルギー基本計画で、2030年の再生可能エネルギー比率をそれまでの22~24%から36~38%に引き上げ、「最優先」で取り組むものと明記されました。
日本の再生可能エネルギーの現実解
四方を海に囲まれた日本の国土は立地上、風力、水力、地熱発電は大きな制約が課されます。コスト面で大規模な普及には困難が伴い、したがって再生可能エネルギーを主流電源に切り替える場合、現実解として太陽光がやはり中心的な役割を担うと考えられます。
太陽光発電の実体は半導体です。n型半導体(nはネガティブ)とp型半導体(pはポジティブ)という性質の異なる2つの半導体を貼り合わせて、接合部分に光を当てると電気が発生するという仕組みです。歴史は古く1839年には原理的な部分が発明されました。
高価なシリコンウエハ上に成形された10センチ角の太陽光発電のセルを数十枚つなぎ合わせてモジュールを形成し、このモジュールを何枚か組み合わせた「アレイ」と呼ぶパネルで実用に足る電力量を作り出して、これをビルや家屋の屋根に並べます。
しかしアレイを並べただけでは、太陽光発電システムを実際に稼働させることはできません。作り出した電気を直流から交流に変換する「パワーコンディショナー」(インバーター)が必ず一緒に据えつけられます。この組み合わせが太陽光発電システムの基本的な仕組みとなります。
ほかにもパワーコンディショナーから流れる電力を建物内の電気機器に分配する「分電盤」、電力会社からの電力使用量を計測する「電力量計」(メーター)、昼間に発電した電力を夜も利用できるように貯めておく「バッテリー」(蓄電池)、そのバッテリーに適正な電圧を貯める「コントローラー」も合わせて必要になります。
パワーコンディショナーの内部に組み込まれる「パワー半導体」も重要なパーツのひとつです。
電気ビジネスの課題を解決する方法
電力ビジネスの最もむずかしいところは、発電量と消費量を常に一致させなくてはならない部分にあります。従来は電力会社が集中管理することで供給量を調整していました。しかし自然エネルギーを用いる再生可能エネルギーでは、その仕組みが通用しない部分がどうしても出てきます。
そのため、個々の家庭やビルにとどまらず、町ぐるみ、都市まるごとのエネルギー源に再生可能エネルギーの導入を図る際に、地域のトータルな取り組みとして「スマートグリッド」と呼ばれる次世代送電網の構築が期待されています。
スマートグリッドとは、IT技術をフル活用して家庭、事業所、工場の電力需要と再生可能エネルギーによる発電量(供給量)をきめ細かく制御する「分散型電源」を指します。
スマートグリッドの構築には国、地方都市、電力会社、交通機関、商業施設、公共団体を含めた、きわめて大がかりで高度なインフラの再構築が必要です。そこでは電力の需要と供給双方で膨大なデータ処理が必要となります。
その際に、上に掲げた分電盤、電力量計、バッテリー、コントローラーなど、電力送電網のシステムがまるごと必要となります。
再生可能エネルギー関連銘柄
パワーコンディショナー関連
安川電機(6506)
産業用ロボットの大手メーカー。サーボモーターとインバーターで世界トップだが、環境・エネルギー機器分野も得意とする。消費電力を制御し自立運転機能を搭載した多機能の太陽光発電向けパワーコンディショナーを供給。
ダイヘン(6622)
小型変圧器では国内トップの専業メーカー。小型ばかりでなく大型変圧器、制御・通信機器、溶接機器・ロボット、プラズマ電源など幅広く供給。同社の電力制御のノウハウをフルに組み込んだ太陽光発電システムは、発電量の最大化において業界トップクラスの変換効率を誇る。
山洋電機(6516)
産業向け電源装置、冷却ファン、ロボット向けサーボシステムの3つの領域を収益の柱とする。同社の太陽光発電システム用パワーコンディショナーはあらゆる太陽電池モジュールに適用可能。防水・防塵性と高い電力変換効率で信頼を獲得している。
パワー半導体関連
三菱電機(6503)
数々の不祥事で信頼を損ねたが、本来は重電システム、FAメカトロニクス、人工衛星など揺るぎない技術と実績を有する。パワー半導体では世界トップの実績。同社が得意とする炭化ケイ素のパワー半導体は、シリコン製と比べて電力の損失を大幅に減らすことができる。
富士電機(6504)
産業向け発電システム、変電器、インバーターなどパワーエレクトロニクスを事業の中心に据える。三菱電機のライバル。同社のパワー半導体といえば従来は無停電電源装置向けに開発されてきたが、高電圧・大電流の処理能力に長けEV用の駆動モーターに不可欠とされている。
サンケン電気(6707)
パワー半導体に特化する独立系大手メーカー。独自の回路技術とこれまでに蓄積された電源技術を応用してパワーコンディショナー向け電源ICなどを提供。効率の良い電力変換をサポートする。前期・今期ともに史上最高益を更新。
分電盤
大崎電気工業(6644)
電力量計で国内トップ。売上高の半分を電力会社向けが占めている。大手電力会社によって「スマートメーター」の導入が進められており、近年の収益の伸びを支えてきた。次の更新時期は2025年度からと見込まれる。スマートメーターとは電気料金の請求(検針業務)ができる通信機能や遠隔開閉機能を備えた電力量計のこと。電力システムの基幹インフラと位置付けられる。
日東工業(6651)
配電盤、高圧受電設備、キャビネット、引き込み線と電気機器を風雨から守るキャビネットで国内トップ企業。分電盤も多数の品種をそろえる。近年は商業施設や駐車場にEV用充電器が設置されるケースが増えており新たな需要が急増している。数多くの製品評価試験を繰り返して蓄積したデータが高品質を支える。
蓄電池
住友電気工業(5802)
電線、光ファイバー、自動車用のワイヤハーネスを世界規模で展開する。しかも通信インフラにとどまらず、エネルギーマネジメント、超電導技術などあらゆる先端技術を志向している。同社のレドックスフロー電池は、イオンの酸化還元反応を利用して充放電を行う蓄電池。電解液の劣化がほとんどなく常温運転が可能。長寿命で安全性が高い。太陽光発電をはじめ再生可能エネルギーの系統電力向けに最適とされる。
ニチコン(6996)
アルミ電解コンデンサーのトップ企業。「京都銘柄」の一角を構成。金属蒸着フィルムから開発したフィルムコンデンサーはEV向けの駆動用インバーターユニットに採用され、長寿命、安全性が高く、耐電流性能、フレキシブルな形状から需要が急増している。また家庭用蓄電システム「トライブリッド」は歴史が古く納入実績が豊富で、1台で家庭用の太陽光発電による家庭用電源供給からEV充電までまかなうことができる。法人向けにも提供。
参考文献
「太陽電池の仕組み」(2010年、新星出版社)、「太陽光発電システムのパワーコンディショナ入門」(2014年、オーム社)、「電気エネルギー概論」(2008年、オーム社)、日本経済新聞