◆ポップスの巨匠、ポール・アンカが来日する。今月23日に東京ドームシティホールで15年ぶりの来日公演を開く。御年81歳が数々のヒット曲を披露する。当然、デビュー曲の「ダイアナ」も歌われるだろう。81歳のポール・アンカが、~君は僕より年上と、まわりのひとは言うけれど~、と歌うのを聴くのも一興である。

◆クライマックスを飾る曲は「君は我が運命」と「マイ・ウェイ」で間違いない。「マイ・ウェイ」はクロード・フランソワのフランス語の曲にポール・アンカが英語の歌詞をつけ、フランク・シナトラが歌って大ヒットした。今年2月に日経新聞「私の履歴書」を連載した作曲家の村井邦彦氏がフランスの音楽出版社から3曲の出版権を100ドルで買ったが、そのひとつが後に大ヒットした「マイ・ウェイ」だったというエピソードを書いていた。

◆日本の大型連休中に開かれたFOMC(米連邦公開市場委員会)で、FRB(米連邦準備制度理事会)は10会合連続となる利上げを決定した。その後の記者会見に臨んだパウエル議長は、相次ぐ米銀の破綻について後悔していることはあるか、と聞かれるとこう答えた。“Regrets, I’ve had a few.”(後悔、少しはある。)
節こそつけなかったものの、「マイ・ウェイ」の有名な歌詞の一節であることは誰もが気づく。会見場には笑いが起きた。パウエル議長は続けて「もっと違ったやり方があったのではと思われるだろう」と述べ、銀行への規制・監督が不十分だったことを認めた。

◆さすがFRB議長ともなると当意即妙の受け答えをするものだと感心したが、同時に“a few (少し)”で済むのかとも思った。記者会見での質問は銀行破綻についてだったが、より根本的な後悔が他にあるのではないか。インフレを一時的と見誤り引き締めが遅れたことだ。遅れを取り戻そうと通常の2倍3倍のペースの利上げを断行した。後手後手に回った対応を悔いていないかと問うのは無粋というものだろう。

◆問題はこの先だ。5%超まで高めた政策金利の今後が米国景気の行方を左右する。パウエル議長には、これ以上将来の後悔の種を残さないよう細心の政策運営をお願いしたい。そのためにはより緊密な市場との対話と意思疎通を望む。米国景気と、ひいては世界の市場の命運はあなたにかかっているのだから。「我が道」を行くあなたに世界の投資家はこういうだろう。「君は我が運命」だと。