老後のお金の準備については多くの方が気になっているかと思います。そんな時に「絶対間に合う」だとか「60歳までに必ず貯まる○○円」といったタイトルがあれば、やはり興味を持ってしまうものでしょうか。

随分前の話ですが、とある出版社と本を執筆する打ち合わせをしました。出版不況と呼ばれる昨今、先方は上記のような「キャッチー」なタイトルを掲げたいと言ってきました。私はコンプライアンスが徹底した金融機関の出身ですし、FPという職業柄、そんな無責任な言葉はけっして使えないという点で平行線となり、そのお話はなくなったことがあります。

出版物より、自由にお気楽に考える人が多いのか、ネット上の記事やコラムには時々驚くようなものがあります。50歳で貯蓄がゼロでも老後資金は間に合うのか・・・と聞けば、どんな奥の手が出てくるのかと、つい最後まで読んでしまいましたが、やはりがっかりしました。これだけの対策でいいのか?!読後感です。老後資金対策として、月々2万円の安全重視の積立→年間24万円、60歳までで240万円の積立を元本重視の安全運用とは!さすがに退職金を合わせても老後に間に合わない可能性が高いとは書いてあり、生涯現役で働くつもりで・・・という流れ(オチ)ではありましたけれど。
読んでもらえればよし(宣伝等)とする作り手にとっては良いのかもしれませんが・・・。正しいこと、役に立つことを伝えるというまっとうな、良心的な記事をきちんと選ばないで、どんな記事でも中身をまるまる信じてしまうのは要注意です!

では50歳で貯蓄ゼロの人は本当にお先が真っ暗なのでしょうか。なぜ貯蓄ゼロになるような生活をしているのか、そこの確認から始める必要があります。やたら無駄な支出の多い生活スタイルであれば、無駄を省き、支出をスリム化することで、月々貯蓄に回せるお金も2万円より大きくできる可能性は高いかもしれませんよね。ボーナスで赤字補填する生活をしているのであれば、そこを改善することでボーナスも貯蓄に回せます。生涯現役と言いますが、より収入を増やすための準備も50歳から始めれば退職後の収入も高められるかもしれません。
病気などで働けなくなる可能性も考慮して、そうした保険の加入も保険料との兼ね合いですが、検討の余地はあります。
生活スタイルの見直しと将来設計(そもそも将来はどこでどんな生活がしたいのか、が重要!)があって、初めてどのくらい老後資金が必要なのか、生活を見直せばどのくらい貯蓄に回せるか、どの程度のリスクを取る必要があるのか等の運用方法も考えられるわけです。
やみくもに月々2万円をねん出すればどうにかなるわけではないことは明白ですよね。
なかなか貯められないタイプの人が強制的に積み立てをしていくのは、もちろん賛成ですが、その金額、選択する商品はその人の背景によって大きく変わってきます。
前回、前々回でも触れていますが、まずは自分を知り、必要なものを知り、そこから計算することが大切です。

廣澤 知子
ファイナンシャル・プランナー
CFP(R)、(社)日本証券アナリスト協会検定会員