S&P500の11分類のセクターのうち、時価総額1000億ドル超が9銘柄ある資本財セクター

S&P500は米国の主要産業を代表する500社で構成される株価指数です。構成銘柄の採用には時価総額や株式の流動性だけでなく業績も考慮されるため、優良銘柄が多いことも特徴の1つです。

構成銘柄は情報技術(IT)、ヘルスケア、金融、コミュニケーション・サービス、一般消費財、資本財、生活必需品、エネルギー、公益、不動産、素材の11セクターに分類され、各々セクター指数も算出されています。

11に分類されるセクターのうち、今回ご紹介するのは資本財セクターです。構成するのは73銘柄で、S&P500に占めるウエートは8.7%に達しています。

時価総額のベスト10はユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)、レイセオン・テクノロジーズ(RTX)、ハネウェル・インターナショナル(HON)、ロッキード・マーチン(LMT)、ユニオン・パシフィック(UNP)、ボーイング(BA)、キャタピラー(CAT)、ディア・アンド・カンパニー(ディア)(DE)、ゼネラル・エレクトリック・カンパニー(GE)、オートマチック・データ・プロセシング(ADP)となります。

【図表1】S&P500の業種別ウエート
出所:S&P Dow Jones Indices LLCの資料を基にDZHフィナンシャルリサーチ作成(2023年3月31日時点)

貨物輸送、航空・防衛、オートメーション機器、産業部品、貨物鉄道、農業機械、建設機械、重電などを主力事業とする銘柄が並びます。ほとんどが創業100年以上の「100年企業」で、首位のユナイテッド・パーセル・サービスの創業は1907年、2位のレイセオン・テクノロジーズは前身企業の創業が1922年です。

オートメーション機器のハネウェル・インターナショナルや貨物鉄道のユニオン・パシフィック、農業機械のディア&カンパニー、そして発明王エジソンの流れをくむゼネラル・エレクトリック・カンパニーは19世紀に誕生しています。19世紀後半~20世紀前半に創業し、米国の産業界を支えてきた企業ばかりで、創業70年超のオートマチック・データ・プロセッシングが新しい企業に思えるほどです。

株式市場への上場も1892年のゼネラル・エレクトリック・カンパニーは別格としても1920~30年代に上場した企業が目立っています。

先行者利益があるとはいえ、伝統にあぐらをかいていては厳しい競争を勝ち抜けるはずはありません。いつの時代も卓越した先見性を持ち、絶え間なくイノベーションを繰り返してきた企業ばかりとみるべきでしょう。20世紀の世界恐慌や第2次世界大戦、金融危機など激動の現代史という荒波を乗り越え、今なお世界的な大手であることは特筆に値します。

資本財セクターを構成する73銘柄の中で2023年4月14日時点の時価総額が1000億ドル(約13兆4000億円)を超えるのは9銘柄に上ります。

【図表2】S&P500資本財セクター:時価総額上位の銘柄(百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成(2023年4月14日時点)

主要産業に精通し、米国の歴史を支え続ける資本財セクター銘柄6選

ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)、小口貨物輸送の最大手

資本財セクターの時価総額で首位に立つユナイテッド・パーセル・サービスは、米国内の小口貨物輸送の最大手です。国内の宅配業務に圧倒的な強みを持ち、即日配送や翌日配送、時間指定などに対応しています。

2022年の1日当たりの平均貨物配送数は2079万個で、トラックやワゴン、二輪車など配送用の車両数は約12万5000台に上ります。2022年12月期決算では、国内パッケージ貨物部門の売上高が前年比6.5%増の642億900万ドル、営業利益が同8.7%増の69億9700万ドルに達しており、全体に占める割合は各々64%、53%です。

グループ内で国内パッケージ貨物部門に次ぐ規模を持つのは国際パッケージ貨物部門で、2022年12月期の売上高に占める割合は20%、営業利益に占める比率は33%です。欧州やアジア、中東、アフリカ、カナダ、中南米など220を超える国・地域に貨物を配送しています。1日当たりの取扱量は350万個に上ります。

運航する航空機の数は2022年末時点で291機。ケンタッキー州ルイビルを拠点に米国内の主要空港をはじめ、ドイツ、中国本土、香港、カナダなどの空港を地域ハブとして活用しています。

3つの事業セグメントのうち規模が最も小さいのがサプライチェーン・ソリューション部門で、売上比率が16%、営業利益比率が14%です。航空貨物のフォワーディング、通関業務、トラック輸送の仲介業務、物流サービスなどを提供しています。航空機やトラックなどの輸送手段をはじめ、国際的なネットワークを持つ点が強みになっています。

小口貨物輸送ビジネスはネット通販の隆盛を受けて需要が急拡大しました。ユナイテッド・パーセル・サービスの売上高は12年間で倍増し、2022年12月期には1000億ドルの大台に乗っています。ただ、アマゾン・ドットコム(AMZN)は自社の物流部門の強化を推し進めており、かつての大口顧客がライバルに転身する見通しです。

【図表3】ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS):業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表4】ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS):株価チャート
出所:トレードステーション

レイセオン・テクノロジーズ(RTX)、航空・防衛に重心

資本財セクターには航空・防衛産業に分類される銘柄が多く、ボーイングとロッキード・マーチンという航空機メーカーに加え、ハネウェル・インターナショナルやゼネラル・エレクトリック・カンパニーも航空機エンジンを製造しています。

資本財セクターで時価総額2位のレイセオン・テクノロジーズは中でも航空・防衛分野の売上比率が高く、世界の航空機エンジン市場でトップクラスのシェアを誇ります。

レイセオン・テクノロジーズの主力部門は4つに分かれています。売上高や営業利益の規模に大きな偏りがなく、バランスがとれている印象です。

最大の事業部門であるコリンズ・エアロスペース部門では航空・防衛関連システムの開発や関連製品の製造を手掛けています。航空電子システム、航空システム、通信システム、ナビゲーション装置、運航制御システム、航空データ・航空機センサーシステム、エンジン制御システム、エンジン部品、着地システム、ブレーキシステムなどが主力製品です。

航空機メーカーや航空会社、政府機関などにシステムや製品を提供しており、ボーイングとエアバスが主要顧客です。2022年12月期決算の売上高全体に占めるコリンズ・エアロスペース部門の割合は29%、営業利益に占める割合は37%です。

プラット&ホイットニー部門は航空機用エンジンの開発と製造を手掛け、売上比率は29%、営業利益に占める比率は17%です。大型旅客機から戦闘機まで多様なエンジンの開発に定評があります。また、ロッキード・マーチンが開発する米主力戦闘機「F-35」用のエンジンを提供しています。

ミサイル&防衛部門は、空対空ミサイル、空対地ミサイルなど多様なミサイルの開発と製造を手掛けています。地対空ミサイルの「パトリオット」や巡航ミサイルの「トマホーク」といった名称をニュースで耳にしますが、これらは同社の製品です。この部門の売上高が全体に占める割合は21%、営業利益に占める割合は24%です。

情報&スペース部門は航空・防衛関連のセンサーシステムやソフトウエア・ソリューションを提供しています。売上高全体に占める割合は20%、営業利益に占める割合は21%です。

【図表5】レイセオン・テクノロジーズ(RTX):業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表6】レイセオン・テクノロジーズ(RTX):株価チャート
出所:トレードステーション

ハネウェル・インターナショナル(HON)、主力4分野で事業展開

時価総額の3位はハネウェル・インターナショナルです。事業分野は宇宙航空、機能性材料・技術、安全・生産性ソリューション、ビルディング技術の4つに分かれています。

宇宙航空部門は航空機用の製品、ソフトウエア、サービスなどを航空機メーカーや航空会社に提供します。エンジンをはじめ、補助動力装置、安全装置、通信システム、ナビゲーション・システム、レーダー、監視システムなどが主力商品です。2022年12月期決算の売上高全体に占める割合は33%です。

機能性材料・技術部門は、製造業のオートメーション化に必要なソリューションを提供します。石油・ガス、発電、金属、生命科学といった産業が対象です。機能性材料は中間品として製造し、電子、医薬、石油化学などの業界に提供しています。売上高全体に占める割合は30%です。

安全・生産性ソリューション部門は、製造業などの生産現場での安全性確保と生産性向上を目的に製品やソフトウエアなどのソリューションを提供しています。ガス検知システムやクラウドベースの警報システムなどに加え、労働者が着用する衣類や靴なども開発、製造しています。売上高全体に占める同部門の割合は19%です。

ビルディング技術では、施設の安全性を守るセキュリティーシステムや防災システムに加え、建物の管理を総合的に手掛けるシステムも提供しています。売上高全体に占める同部門の割合は17%です。

【図表7】ハネウェル・インターナショナル(HON):業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表8】ハネウェル・インターナショナル(HON):株価チャート
出所:トレードステーション

ロッキード・マーチン(LMT)、防衛分野に力点

時価総額の4位はロッキード・マーチンです。軍用機など防衛分野の比重が高いことで知られています。

航空部門では戦闘機や輸送機、無人航空機などを含む軍用機の開発と製造を手掛けています。米国の主力戦闘機「F35」がよく知られており、日本などの同盟国も導入しています。2022年12月期決算の売上高全体に占める同部門の割合は41%です。

ロータリー・ミッションシステム部門では、ヘリコプターの製造をはじめ、ミサイル防衛システムやレーダーシステムなどの開発を手掛けています。売上比率は24%です。宇宙部門では人工衛星を開発、製造しており、売上比率は17%です。

【図表9】ロッキード・マーチン(LMT):業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表10】ロッキード・マーチン(LMT):株価チャート
出所:トレードステーション

ユニオン・パシフィック・カンパニー(UNP)、米国最大級の貨物鉄道

時価総額の5位は貨物鉄道を運営するユニオン・パシフィックです。前身企業の創業は南北戦争真っ只中の1862年。奴隷解放を掲げるリンカーン大統領が「パシフィック鉄道法」に署名し、誕生しました。

貨物鉄道としては米国最大級で、米国西部と中西部、南部の計23州を結んでいます。鉄道の総延長は3万2,530マイル(約5万2,360km)で、これは地球1周を優に上回る長さです。

主な貨物は穀物、肥料、食品、石炭、工業化学品、金属・鉱物、木材、エネルギー製品、自動車などです。2022年12月期決算は売上高が前年比14.1%増の248億7500万ドル、純利益が同7.3%増の69億9800万ドルと着実に成長しています。

【図表11】ユニオン・パシフィック・カンパニー(UNP):業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成 ※ 期末は12月
【図表12】ユニオン・パシフィック・カンパニー(UNP):株価チャート
出所:トレードステーション

ボーイング(BA)、防衛部門でも存在感

時価総額の6位は航空機メーカーのボーイングです。民間航空機の世界シェアでエアバスと激しいつばぜり合いを演じていますが、軍用機でも大きな存在感を持っています。特にコロナ禍で民間の航空機需要が減退した2020年と2021年には、防衛・宇宙・セキュリティー部門の売上高が民間航空機部門を上回りました。

民間航空機部門では「ボーイング737」「767」「777」「787」などが主力です。2022年12月期には売上高全体に占める割合が39%に達し、防衛・宇宙・セキュリティー部門を再逆転しました。

防衛・宇宙・セキュリティー部門では、1997年に吸収合併したマクドネル・ダグラスが開発した主力戦闘機「F15」の製造を引き継いでいます。また、米大統領専用機「エアフォースワン」は大型民間旅客機「ボーイング747-200」をベースに改修されていますが、発注元は米空軍です。同部門の売上比率は35%です。

【図表13】ボーイング(BA):業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表14】ボーイング(BA):株価チャート
出所:トレードステーション