先週の動き:2020年8月の過去最高値に迫ったニューヨーク金先物価格(NY金)終値、国内金価格は連日過去最高値を更新

先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は、静かな展開ながら上値追いの状況が続き、年初来高値を更新した。4月13日には2022年4月の高値を上抜けし、通常取引終値(清算値)ベースで過去最高値となる2020年8月6日の2,069.40ドルに次ぐ高値となる2,055.30ドルを付けた。

そのまま高値更新の可能性も高まったが、ここまで急速に買い建て(ロング)を膨らませたファンドの利益確定売りが週後半にかけて目立ち、終値および取引時間中の高値更新には至らなかった。

米銀行不安の高まり以降に発表された経済指標に景気の減速傾向を示すものが増えており、米連邦準備制度理事会(FRB)によるここまでの利上げサイクルの終了が強く意識され、米ドルが弱含みに推移。ドル指数(DXY)が2022年4月以来1年ぶりの水準まで低下する中で、NY金は心理的な節目の2,000ドル超の水準を連日維持した。

その一方、4月12日に発表された米3月消費者物価指数(CPI)および翌4月13日の米3月生産者物価指数(PPI)が引き続きインフレの鈍化を示したことから、一旦は上抜けた節目の2,050ドルだったが、さすがに歴史的高値圏ということから売り圧力も強く、週末にはFRB高官のタカ派発言もあり、週末4月14日の終値は2,015.80ドルと前週末の水準を下回って取引を終了した。

週初には前週末に発表された3月米雇用統計で失業率が再び歴史的低水準の3.5%に低下するなど、労働市場が引き続き堅調に推移していることから、FRBが5月にも利上げを継続することが意識され、一時は2,000ドル割れの水準まで売られていた。

NY金は週足で10.60ドル、0.52%の低下となった。週足の下げは7週間ぶりとなる。先週のコラムではレンジを1,995~2,045ドルと想定していたが、1,996.50~2,063.40ドルとなった。ほぼ想定通りだが、目立つ内容ではなかった米インフレ関連指標を手掛かりとした2,050ドル突破には、意外感があった。イベント含みではない上昇相場だが、底堅さを感じさせた。

一方、NY金の上値追いをそのまま反映する形で国内金価格の過去最高値更新が続き、地上波のワイドショーなどでも金価格過去最高値更新が報じられた。

国内金価格は、5営業日中3営業日で最高値を更新した。国内金価格の高値は終値ベースで4月14日の8,682円、取引時間中の高値は8,697円となった。先週のコラムでは想定レンジを8,400~8,550円としていたが、8,461~8,679円と100円以上上振れとなったのは、一時134.05円まで円安が進んだことによる。店頭小売価格は10%税込みで4月14日9,609円と、こちらも過去最高値を更新した。

2023年後半の景気後退の可能性を記したFOMC議事要旨

引いては寄せる波のようにFRBによる利上げ継続観測が弱まったり強まったりする中で、ドル指数(DXY)と米長期金利(10年債利回り)が上下し、金市場ではファンドの運用プログラム(アルゴリズム)に沿った売買がNY金を上下させている。先週4月12日には3月21~22日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨が公開され、銀行不安の高まりを考慮し利上げの一時停止が検討されたことが判明した。

議事要旨からは、当局者らが過熱気味の労働市場などを背景に一時は切り上げた利上げの最終水準予想を、複数の銀行破綻で市場が混乱したことを受け、後退させたことが判明した。幾人かは、3月会合で金利を据え置くかどうか検討していたと明らかにした。

今後銀行が融資に慎重になることで「総需要を圧迫し、インフレ圧力の軽減につながる可能性がある」ともした。不確実性の高まりが家計心理を冷やして消費を抑制したり、企業が設備投資や新規雇用を絞ったりする可能性についても意見を交わしたとしている。

利上げの一時停止については議論の結果、インフレ対応を優先し利上げすると結論付けたことが判明した。注目されたのは、「2023年後半に穏やかな景気後退が起こる」というスタッフ予想が示されたこと。FRB理事など執行部とスタッフ間の見通しに温度差があることを感じさせた点で、今回の議事要旨の注目度はさらに上がった。

総合指数鈍化も基調的なインフレ持続の米CPI、発表後NY金は乱高下

3月の米CPIは、総合指数は前年同月比5.0%上昇と前月の6.0%から減速し、2021年5月以来の穏やかな伸びになった。2022年6月をピークに9ヶ月連続で鈍化したことになる。市場予想の5.1%も下回った。

ただ、変動の大きい食品とエネルギーを除くコア指数(コアCPI)は前年比5.6%上昇と、6ヶ月ぶりに伸びが加速した。前月は5.5%で市場予想の5.6%に沿った結果となった。前年同月比ベースでコアCPIの伸びが総合指数の伸びを上回るのは、この2年余りで初めてのことである。

総合指数の伸びが予想を下回る前年比5%になったことで、一旦は買い優勢に転じた金市場だったが、コア指数が前月より加速したことで、一転し売り込まれた。

それはそのままFRBの利上げ政策の先行き判断に焼き直され、ヘッドラインの総合指数5.0%に低下で当初はFRBが早期に利上げを停止するとの見方に傾き2,043.90ドルと1週間ぶりの高値を付けたものの、コアCPIからは停止には時間を要するとの見方が浮上すると一転して売り圧力が高まり2,015.70ドルの安値を付ける荒れた展開となった。

実際にこの日の米CPIの結果発表後に米経済チャンネルCNBCのインタビューを受けたリッチモンド地区連銀のバーキン総裁は、「確かにインフレのピークは過ぎたと考えるが、まだ道のりは長い」と発言。「食品とエネルギーを除いた価格はまだ高過ぎる」と述べた。その上で「我々が望む水準にコア指数を戻すには、さらにやるべきことがある」と利上げを示唆した。

また、週末4月14日に行った講演でウォラーFRB理事は、3月のコアCPIが前月比ベースでほとんど鈍化しなかったことに言及し、「(総合指数が6.0%から5.0%に低下しても)安堵感はなかった」とした。根強いインフレを背景に利上げを続ける必要性につき、「(FRBには)まだまだやるべき仕事がある」と発言。2%を目指すインフレ目標に対して「(今回のコアCPIの結果は)あまり進展がないことを示唆していると解釈している」とした。

この発言をきっかけに4月14日の金市場では、利益確定の売りが広がることになった。CPI総合指数が前月の6.0%から5.0%に低下したことを市場が評価したのに対し、FRB執行部はコアCPIの高止まりを警戒していることがうかがえる発言内容と言える。

今週の展望:FRB高官の発言に注目。NY金は2,000~2,040ドル、国内金価格は8,500~8,700円の狭いレンジ取引を想定

5月2~3日に予定されているFOMCを前に、来週はFRB高官が金融政策に関連する発言を控えるブラックアウト期間に入る。その関係もあり今週はFRB高官の講演やパネル登壇など発言機会が連日予定されている。

米経済指標は、4月18日の3月の米住宅着工件数・建設許可件数や4月20日の3月中古住宅販売件数などの発表が控えるが、市場の関心がFOMCに移っており、FRB高官発言に向けられることになる。

また米主要企業の決算発表も注目される。特に銀行決算では引当金の動向などにも注目が集まる。FRB高官の発言内容については、年央以降の利下げまで織り込みにかかっている市場を牽制する意味合いから、タカ派的な内容の発言も想定できるが、金市場では一定の耐性が見られることから、おおむね2,000ドルは維持するものと思う。

想定レンジをNY金は2,000~2,040ドル、国内金価格については8,500~8,700円と過去最高値圏での狭いレンジの取引が続くとみている。

【図表】ゴールド 縦軸:円建てゴールド/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券